伊勢うどんはまずいのか?


今回の伊勢行きで初めて伊勢うどんを食べました。


ずっと以前から「伊勢うどん=まずい」の噂をたっぷり聞いてきました。曰く、「極太うどんにコシがない」「手抜きでたっぷりゆでてあげてある」「卒倒するほど出汁が黒い」「甘辛い汁なんて信じられない」


ふにゃふにゃの極太麺に甘辛の真っ黒汁・・・なんですね。


しかし、こうまで悪く言われる郷土食となるといちいち反発してみたくなるモンです。



すべての麺にコシを求めること自体いかがなものか
アルデンテなんてことでさえ、日本人が知り始めたのはたった30-40年ほど前じゃァないか
黒い汁がいやならイカ墨スパゲッティはどうなる
甘辛いことを否定的にいうけれど、甘辛は昭和の中ごろまでは日本人は大好きであったのだ
郷土食を他地域の人間が悪く言うのは品性に欠ける



歴史認識でもそうですが・・・(って大きく出てしまいました)日本人は、現代の自分の感性でしかものごとを図ろうとせず、それを唯一絶対無二のものと信じる傾向がはなはだしいのです。


伊勢うどんの歴史がどこまで遡れるのか詳しくはわかりませんが、少なくとも明治以前、江戸の昔から受け継がれるものです。


私が知る昭和30年代でさえ、一般人が麺にコシがあるのが当たり前だとは思っていませんでした。街の蕎麦屋の蕎麦は手打ちでないことが普通でしたし、家庭で出てくるうどんにコシがないといってオヤジが卓袱台をひっくり返すようなこともありませんでした。ラーメンだって、伸びた麺はともかく、コシコシとこだわり始めたのはもっと後になってからです。前述のスパゲッティは喫茶店、洋食屋さんだってランチ時には大量に茹でておいてケチャップでいためることに疑問を感じていませんでした。アルデンテを知ったのは伊丹十三の著作が始めてであったし、当時手に入る国産スパゲッティをアルデンテにしたって説得力は感じられない時代でした。


つまりコシ一つとっても、その美味しさに気づくより遥か昔から受け継がれてきたのが伊勢うどんであったはずなのです。



大阪の方々が「東京のうどんの汁が真っ黒なのが信じられない」とは、今でもよく語られたりします。私自身、子供の頃、家庭で出てくるうどんは濃口醤油で黒く、甘さもある汁でした。関西のうどんを味わったのはずいぶん歳を経てからでしたし、あの頃この地で薄口醤油を使うことは家庭では一般的ではありませんでしたし、昆布出汁も家庭では使いませんでした。情報がたっぷり流布して、「美味しいうどんとはこういうもの」「作り方はこうです」と簡単に一般人が知るようになったのはつい最近のことです。


特に甘辛に対する味覚の変化はこの30-40年で大きく変化しています。味の濃いもの、甘いものを否定的に考えるのは最近のことなのです。たった半世紀前甘さへの憧れはまだまだ残っていました。生クリームをたっぷり使ったケーキなんて地方都市では夢であったころ、キントンが他の店よりも甘ければそれが人気の秘訣であった時代でしたし、甘辛い味付けは日本人の味覚にとても説得力を持っていました。





新しい創作ばかりがもてはやされ、プロデュース物にうつつをぬかし、TVでやっているから美味しいはず・・・と一週間単位で行く店の流行が動き、料理店を使い捨てている東京を中心として食社会こそがいかがなものか・・・と私は思います。「伊勢うどん=まずい」とはまったく逆に、昔の時代の感性をそのまま受け継げる伊勢の人々にこそ大きな拍手を送りたい気持ちです。




で、
実際食べた伊勢うどんは・・・・美味しかったです。


あの茹で過ぎというよりは、独特のフニュフニュ感を意志を持って茹で上げられた麺は他では味わえないですし、甘辛い汁と玉子との相性も抜群、シンプルに葱だけがのっている潔さが素晴らしい。単純なものだけに食べ飽きないうどんです。一日一回とまではいえませんが、週一回だったら食べ続けてみたいと思うほどです。


そしてなにより、店の佇まいが地元にしっかり密着していて変わっていないのは驚くべきです。今私の地元でさえそういう店は生き残っていけていないのに。。。伊勢、恐るべし。