ショパン


一度挫折して放ってあった平野啓一郎さんの「葬送」を再び手に取ると、これが想像以上に手ごたえのある小説で、緻密というのでは収まりきらないほど綿密でしつこいほどの描写、1800年代初頭が目の前にあると感じるほどの人々の心の動きに圧倒されっぱなしです。こういう手ごたえを小説に感じたのは個人的には開高健「夏の闇」以来です。これは一気に読み進んではもったいない物語です。一言一言をかみしめるように味わっていかなくてはいけません。まだ前半部分しか読み進んでいないのに、平行して読み終えたのは新書二冊、文庫二冊。こんなペースが私には丁度いいのです。



今日、たまたまBSで放映していたのがNHKBS「仲道郁代 ショパンのミステリー 特別編」 丁度「葬送」に現れていたジョルジュ・サンドと過ごしていたノアンの別荘。本でイメージしていた風景が目の前の画面に現れてくる実在感にワクワクします。さらには仲道さんがショパンが書き込んだ譜面の写しを読みながら、あの時代に作られたプレイエルのピアノを弾くシーンがことさら印象的でした。仲道さんはプレイエルを弾きながらショパンが自分の中に現れてくるかのように感動し、「ずっと弾いていたい」と古いピアノに向かう姿は音楽家としての純な心を見るようで清々しい光景でした。プロフェッショナルの至高の瞬間は美しい。