映画「第九地区」


アカデミー作品賞にノミネートされ話題となった「第九地区」を観てきました。



ある日、地球外から正体不明の傷つき飢えた難民を乗せた謎の宇宙船が、突如南アフリカ ヨハネスブルグ上空に姿を現します。攻撃もしてこない彼らを地上で隔離することになります。彼らが最初に出現してから28年後、共同居住地区である第9区はスラム化し、超国家機関MNUは難民の強制収容所移住計画を立てるのですがそこに事件が起きるのです。



地球外生物 UFOといえば、古典「宇宙戦争」に代表されるように高度な知能をもつ侵略者であることがお決まりでした。1970年代「未知との遭遇」が発表されたときの驚きはエイリアンが侵略者ではないという画期的なアイデアに集約されていました。映画を実際に観るまで秘密が厳守されていたこともあって始めてみたときの驚きはもう感動の域にありました。さらに少し遅れて発表された「エイリアン」では宇宙に飛び立つことが、「2001年宇宙の旅」のようにハイテクノロジーで固められた美しいものではなくて、町工場のように薄汚れたものとして描かれたことがとても印象的でした。そのような表現はそれまで存在しなかったのです。


「第九地区」ではとうとうエイリアンは恐れの対照ではなく、薄汚い嫌悪対象として描かれるまでになりました。つまり差別の対象なのです。それが南アフリカで、エイリアンたちはまるでソエトのような地区に隔離され、動物のように虐待されています。まるでソエトの黒人以下のように。それが物語前半。しかし、気弱な小役人の主人公がある事故で身体が次第にエイリアンと化していく過程で差別はこの差別をしていた側の主人公に転換していきます。それと同時進行で、動物のように描かれていたエイリアンには知性と愛情をもつ親子が現れてどこかで差別が逆転していく姿を観客に見せつけるのです。


とはいっても、そうした映画の流れはハラハラドキドキするようなアクションシーンの中にあって観るものをあくまでひきつけて離しません。メインとなるスター俳優も有名監督もいないのに間違いなく今年度ベスト5のうちに入りそうな仕上がりです。映画館で是非。