お客様へのストレス


あるお客様から伺ったお話。


首都圏にある某店に予約の電話を入れたとき「できれば器に傷がつかないようにアクセサリーの類ははずしてご来店いただけるとありがたい」という申し出があったといいます。


「いい器を使っているって聞いていたけど・・・すごいね。高級和食ってそういうモンなの?かえって楽しみかも」と。


お茶事のときのたしなみとしてはそうこともありますが、田舎町の田舎料理屋ではお客様にアクセサリーをはずして欲しいというお願いをしたことは一度もありません。


それほど高価な器や、世にこれしかないというような骨董を使っているわけでもありませんから、お客様の光るもので器が傷つくという発想自体持っていませんでした。振り返って考えてみてもお客様のせいで器がだめになったこともめったになかったように思います。その某店はきっと辛い経験がおありなんでしょうね。


逆にお食事のためにご来店してくださる方が、ここぞとばかりにおめかししてくださることのほうが店としては嬉しい気がしていたという私は、もともとの作法の心得がないわけです。



フレンチなどのようにホールで様々なお客様の姿が見える場所では、お客様のファッションも店の格を物語る大きな要素になって、その華やかさがより店というステージを盛り上げてくれるようにも思うほどです。


それよりもいい器を使うことに誇りを持つばかりにお客様に「どうだ!」と、楽しみよりも「傷つけたら怖い」というストレスを与えてしまうほうが辛いようにも思います。お客様にはあくまでゆったりと器も料理もお酒も楽しんでいただくことが第一義なわけで、押し付けがあることは私的には避けたい事柄です。


まっ、もちろん店のありようは店それぞれ、店主の考え方次第ですからあくまで私の思いなんですけどね。


何しろ、お客様に器を傷つけられる心配の前に、「自分が器を割ってしまわないように気をつけろ!」と自らを戒めなくてはいけない粗忽モノでありますから。