初心者教育


初めて経験するなれない調理場、


先輩は「見て盗め」と教えてくれない。


横目で仕事を見ながら同じ仕事をやらされても上手くできず、


「アホッ! こんな簡単の仕事もできんのか!」とどやされ


トイレでそっと涙をぬぐう。



TVのドキュメンタリー番組だったら格好のオイシイシーンになりそうな調理場風景です。


確かに私の修行時代30年前にはこんなこともあったような気がします。


「アホっ!」「ぼけっ!」「カス!」「給料泥棒」


蹴られたり、雑巾を投げつけられたこともあって、こういう理不尽を決して後の世代には残さまいと決心しました。



今調理師学校から研修に来ている子達は、一週間が過ぎて調理場の雰囲気にも慣れてきましたが、仕事自体は学校で習うことと現場では全く違います。当然のように手取り足取り作業を教え、できなくても根気よく褒めながら慣れさせてあげるように心がけます。


今の関門は鳥つくねの団子作り。左手で搾り出すように球を作り右手でコロコロ転がして綺麗な円球にします。


この時期鳥つくねを作る量は約100kg、毎日少しづつ作って行きます。すでに10kgつづ3日間700-800個のお団子を作っているのですが、そうそう簡単に上手になるものではありません。


「ここは左手をこんな風にしてごらん」とか「このボールと板をこの位置にすると仕事が速くなるでしょ」とか「そうそう、昨日より上手くなってるよぉ」とか


TVドキュメンタリーが頭に染み付いている人が見れば「月謝をもらって教えているんじゃぁないか」と思われるほど懇切丁寧のはずです。


しかしながら、怒られけなされて、おびえながら反発しながら覚えることと、丁寧にゆっくりと教えることと比べたとき、そのスピードや身につき方が圧倒的に違うか・・・というとその差は長い目で見れば大したものではありません。料理の基本系仕事は誰でも繰り返せば必ずできるようになります。要は数をこなすことなのです。怒ったらから早く覚えるわけではなく、つらい思いをしたから身につくわけでもないということを体験的に知っています。そらなら、気持ちよく早く覚えてくれたほうがいいではないですか。私の修行時代を思い返しても蹴られてつらい思いをしたから仕事を覚えたか?というと残ったのは恨みつらみだけのような気がします。研修生たちが取り組んでいる鳥のつくねも100kgを仕上げてる頃には「もっと下手くそにやれ!」といっても上手くできてしまうほど手馴れた仕事になるはずなのです。


調理場に怒鳴り声があることが緊張感であると思うのは大きな勘違いだと思うのです。



とはいえ、「○○の調理場のほうが何度も怒られて厳しいからいい」と思っている若者もいるのだと聞くと、結局私に後進を育てる能力はないのだな・・・とも思ってしまうボンクラ料理人なんですね。


でもね、昔を懐かしむ職人が「厳しく仕込まれたから今の俺がある」と思うのは美しい思い出ではありますが、実は繰り返し同じ仕事を丁寧にやったから技術が身についただけなんですよ。これも現場の実感として断言できます。怒られたから上達したというなら私なんぞ今頃日本一の職人のはず。