日本酒の熟成


昨日お話ししたように「出来立て」「封切直後」の日本酒だけが美味しいわけではないことは日本酒を扱う人間にとっては常識的なお話です。


秋口になって出荷される「ひやおろし」は、新酒がひと夏超えたところでうまみを増すという先人の知恵でもありますし、多くの蔵の大吟醸が寒さが厳しい時期に仕込まれて、次の冬の初め11月から12月にかけて出荷されるように、半年の熟成がお酒にうまみを加えていることを示す事実です。


さらには有名な黒龍「しずく」「二左衛門」「石田屋」や初亀「亀」などの大吟醸は三年くらいの冷温熟成を経てから市場にでてくることでも、日本酒に熟成がいかに大切かが分かるはずです。


蔵で行われる熟成以外に酒屋さんレベルでも冷温、常温さまざまな熟成が試みられていることをご存知の方は多いはずです。


店で今使っているお酒でも「松の司純米大吟醸斗瓶2003」は冷温で緩やかに熟成されたお酒で、角が取れするするとなめらかな口当たりのお酒に仕上がっていますが、飲みなれない方には頼りなさも感じるかもしれません。私などあらゆるお酒を肯定的に擁護したいほうですので、こういう熟成のタイプも日本酒の新しい形としてとらえてみたいと思います。


また別に大阪能勢の秋鹿「奥鹿山廃 平成19年」などは、山廃という酸が立ち味わいの骨格ががっちり出来上がったお酒には、三年の熟成が必要であることを認識させてくれるようないいお酒に仕上がっています。このお酒が新酒であった当時はきっとガチガチの手強いお酒であったはずです。


四国金毘羅の悦凱陣の「燕石(えんせき) 純米大吟醸斗瓶 生 無濾過」は平成18年の醸造。燕石という切れ味と濃い味わいが両立した稀有なお酒が生の状態で冷温熟成されたとき、旨みが醸成されてさらに深まりとてつもなく濃厚なお酒に仕上がりました。これは新酒 火入れの燕石では味わったことのない変化です。


こんな風にお酒の仕込み、熟成の温度帯、熟成の年月によってお酒というのは実にさまざま変化をし我々の舌を楽しませてくれるのです。


新酒の封切したてだけを正しいと思って飲んでいてはこの日本酒の奥行きの深さを感じることはできません。