お大尽(おだいじん)


私がこの世界に入ったころにはすでに「お大尽」という人種は見当たりませんでした。


父は祖父から聞くお大尽達のお遊びは、今のお金持ちのお金の使い方とはちょっと違うようです。


未だにご贔屓にいただいているお客様のお爺さまはまさにお大尽、毎日のように祖父の料理を夕飯に仕出しでお届けし、芸者衆も毎晩お酌のお相手にご自宅に伺っていたのだそうです。この家にお嫁に入った奥さまもかなりのお金持ちのお嬢様ですが、毎日芸者衆が入る家風に驚いたとおっしゃっていました。


私ン処にある岡本一平の掛け軸は、このお大尽からの頂戴モノです。このお軸、普通に買ったものではなくて、何人かのお大尽仲間のお遊びに一平をこの地に呼びよせ、逗留させて何点もの絵を描かせたうちの中の一枚なのだそうです。他にも有田から陶工を呼んで登り窯を作らせて何枚もの器を焼かせるなんていうお遊びもあったのだとか。


ゴルフに毎週出かけるとか、別荘をもっているなんていうのとはお金の使い方が違うんですね。お大尽遊びというと芸者遊びをすぐに思い浮かべますが、そんな単純なものでもなさそうです。


給料取りの社長と、お大尽の違いはこのあたりのお金使いと遊び方の違いなのかもしれません。文化というのはこういう所から生まれるんでしょうか。