名演その34〜美しすぎるソロ

clementia2009-07-25



混沌の1960年代の洗礼を受けたジャズファンの中には、わかり易い音楽、聞き易いメロディーラインを「商業主義に走った演奏」と、今となっては無意味な断定を下しがちな愚か者が多くいました。私なんぞはまさにそのど真ん中を恥ずかしげもなく突っ走っていたのです。


小難しいことが正しくて、難解そうに見えることが洗礼されていると勘違いするような愚行は今の若い方には理解不能でしょう。


そんな愚かなジャズファンのおかげで「ジャズ=難しい」は未だに越えられない高いハードルになっているのです。ジャズのメインとなるアドリブというやつは、時に耳に心地よいとは言えない不協和音を奏で、必ずしもメロディアスとは言えないラインで緊張感を生むのです。


「ジャズってそんなのばっかり」と思っているあなたのために「名演シリーズ」を続けているのですが、今回紹介するミシェル・ペトルチアーニ「プレイグラウンド」は「極めつけ」、誰が聴いても美しいピアノソロで彩られた名演の目白押しです。即興演奏でこれほど完成度の高い美しくて華やかなメロディーラインを想像できるペトルチアーニのピアニストとしての技量は驚くべきです。


しかしながら「わかり易い=商業主義的」の呪縛から放たれない当時の私は、このアルバムをまさに「商業主義的」と断定してしまっていたわけですが、何年か前、哲学者にしてジャズピアノをよくする土屋賢二先生の「お奨めアルバム」とラジオから流れてきた二曲目「ホーム」を聴いてこんな素晴らしい演奏を「商業的」と勘違いしていた自分を強く恥じたのです。


ともかくだまされたと思って最初の二曲のペトルチアーニにピアノを聴いてみてください。このメロディーラインがすらすらと湧き出てくることの天才ぶりに驚嘆するはずです。


さらにちゃんと聴くとバックに徹しているオマー・ハキムのドラムス、アンソニー・ジャクソンのベースにもすっかり魅了されるのです。


「ジャズってなぁ」と思っているあなたにお奨め。