名演その33〜名盤のない巨匠

clementia2009-04-09



歴史に残るヴァーチュオーソには必ず名盤が一つや二つあるものです。


が、今日紹介するトゥーツ・シールマンスには名演がたくさんあっても名盤、つまり彼のリーダーアルバムで傑出したものを見つけるとなると頭をかかえます。


たとえば、クィンシー・ジョーンズのアレンジで演奏した「バッド・ガール」「ゲット・アウェイのテーマ」 
たとえば、ジャコ・パストリアス「ワード・オブ・マウス」二曲目「スリー・ヴューズ・オブ・ア・シークレット」
同じくジャコの日本公演での「ソフィスティケイテッド・レディ」
たとえば、ビル・エヴァンス「アフィニティ」での共演


あげればきりがないほどかずかずの名盤に客演として素晴らしい演奏を残しているのですが、リーダー・アルバムがない。


私がシールマンスの演奏に初めて触れたのは1970年代 クィンシー・ジョーンズのアルバムで数々の名バラードを演奏しているのを聞いてからです。ハーモニカと言えば思い浮かぶのはスティーヴィー・ワンダーくらいだった私には、シールマンズの哀愁をおびた叙情的なアドリブは衝撃的でした。自作のバラードばかりを集めたデート用のカセットテープにはシールマンスとマイルスはなくてはならない存在であったのです。


この「ブラジル・プロジェクト」もリーダーとはいえ、オスカー・カストロ・ネヴェスの強力なプロデュース能力にシールマンスの演奏は乗っかっただけなのですが、全編通してかっこいいシールマンスが聴ける秀作です。なにしろ一曲づつ変わるメンバーが凄い。ルイス・ボンファイヴァン・リンス エリーヌ・エリース、ジルベルト・ジル、ミルトン・ナシメント、ジョン・ボスコ ブラジリアン・ミュージックの巨匠ばかりが居並び名演奏を繰り広げます。この手法、シールマンスの力量がもっとも発揮される形でアルバムができているわけです。


これから夏に向けてボサノバのアルバムを一枚と思っているあなたに最適なCDです。お奨め。


好きになったらVOL.2もあり。