老醜と老秀


ある内輪の打ち合わせ会議でのこと。


「初めての方もいらしゃるから」・・・と全員の自己紹介から始めると、長老格が「ちょっと一言いいかな」としゃべり始めました。


その長老の人となりを知る人は「またかぁ・・・」と内心溜息をつきつつうつむいて我慢が始まります。


語られる内容は、しなくていいい的外れな内部批判、自己肯定、ひとりよがり。


たまりかねた一人が「今は自己紹介の時間だから、それはまた・・・」と言っても、全く耳を貸さず滔々と十分あまりの一人語りの旅が続きました。要は「いかに自分がこの会の隅々までを知っているか」「正しい道は自分に正せるか」 いまどきの若者でも恥ずかしくて言えないほどの過剰な青臭さたたえた、80歳を超えた老人の自己満足を満たす弁舌なのです。「空気読めない」もここまでくれば国宝モノです。



一方、日曜日のFMNHK 月に一度になった「日曜喫茶室」はMCのはかま満緒、常連の安野光雅 ゲストが林光と日下武史 全員が70代だというのに老人のひとりよがりは皆無です。むしろ我々のような小僧っ子には及びもつかない知的でエスプリのきいた語り口で青春時代が語られます。画家としての道、音楽家としての道、俳優としての道 それぞれで一家をなした方々は自分を過剰に語ることもなく、見苦しいほどの謙虚さもありません。


特に日下武史さんの朗読に林光さんがピアノを伴奏するライブなんぞ、人生を重ねた達人でなければできえない傑出したパフォーマンスでありました。


儲けることだけが上手だった老醜を見せていることに気づかない老人と、道を極めた老いることが美しく見える老人、彼らの今の姿はすでに20代の時から見えていたような気がします。