飢餓感が生む幸福


首都圏在住で、仕事をやりくりすれば夕方のコンサートに間に合うような幸せな音楽ファンと違い、コンサートが開催される時間帯は一番のかきいれ時、首都圏の百分の一のコンサート情報しかない田舎町では、ライブを楽しみにする感覚は皆無です。


「えーーーと、この前ライブに出かけたのはいつだっけ?」と考えると、たぶん数年前、ウィントン・マルサリス・オーケストラに行ったことがあるくらいです。


そこそこ有名なアーティストのCDを買うことと、地方のオーケストラのリサイタルライブを天秤にかければ、感動は間違いなく後者にあると信じている私のような音楽好きにとっては、この何十年かは牢獄にいるようなものです。


東京という場所は世界でもまれに見る芸術集中都市であるにもかかわらず、たった新幹線で2時間の距離にいながらそれらの芸術を浴びることからは未開の地にいるほどに遠くにいます。今の商売を止めなければ少なくともコンサートライブに頻繁に出かけることは無理なのです。



で、
J-popといわれる分野で唯一途切れることなく30年聴いている山下達郎さんのコンサートツアーが6年ぶりに行われています。前回はこの地での公演があったにもかかわらず当然のように仕事で出かけられませんでした。こんなにファンなのに一回もライブを経験したことがない悲しいファンなのです。


今回思い切って仕事を休んでライブへ出かける決心をしました。これは私にとってはまさに決心。30年以上この仕事をしてきて、コンサートのために仕事を休んだことはただの一度もありません。「もういいじゃない」「だれも責めはしない」と信じて、電話予約に挑みました。


これが驚き。


基本的に私が聴くような音楽のコンサートは発売日間近なら大概いい席がとれるようなマイナーな音楽ばかり。ところが予約のための電話が絶望的に繋がらないのです。


「これかぁ!」 世間でプラチナチケットを求めるという感覚が始めてわかりました。


仕事そっちのけで3回線の電話でかけまりく、net予約のためのサイトにつなげまくって二時間後、奇跡のようにnetに繋がりました。


う、うれしい。


子供が欲しかったオモチャをやっともらったときのように嬉しい。


私の「決心」が壊されてしまうかと思われたときに光がさしたのです(大げさではなくそういう感じ)


コンサートはまだ二ヶ月先だというのに、ipodには山下さんのアルバムが常に数枚分、デビューから遡ってどの曲が演奏されても青山さんのドラムのフィルインから、伊藤さんのベースのラインまで口ずさめるように勉強です。で、これが楽しいのなんの。


山下さんのライブの素晴らしさはライブCDやサンソンでたっぷり知っているつもりなので、どの曲がどんな風なパフォーマンスになるのか、どんな迫力で迫ってくるのか、毎日ワクワクしながら達郎漬なわけです。


これこそが飢餓感が生む幸福。


昔外国人アーティストなんてめったに見られなかったころNHK世界の音楽」をまさに食い入るように見たのと同じ、LPを買うお金がなくて、一枚を端から端までなめるように聴き続けた若い頃と同じ。


あふれる情報よりも少ない情報が幸せを呼ぶのです。