名演その32〜秋吉(穐吉)敏子さんの評価

clementia2009-01-17



音楽界で日本が世界に誇るべき存在といえば、まず小澤征爾さんと秋吉敏子さんだと信じています。


ジャズファンとしては秋吉敏子さんの業績と評価のギャップの大きさにはじくじたる思いをいつもつのらせています。日本人はもっと秋吉さんを崇めるべきとさえ思うほどです。


1950年代秋吉さんがバークレー音楽院で学んだことが、後に日本にジャズの音楽理論を確立させ、本場アメリカの第一線変わらず活躍した最初の日本人として記憶に留めなくてはなりません。いわば野球で言えば野茂みたいな感じ。


しかも、1970年代から始まった敏子さんのビックバンドへの取り組みと作編曲の偉業はジャズの歴史に燦然と輝くものです。敏子さんとご主人のルー・タバキンが残した数々の演奏は、デューク・エリントン、カウント・ベーシーと並び称せられるものです。日本人の、しかも女性が(この時代に活躍していた女性は、ヴォーカル以外ではマリアン・マクパートランドくらいしか思い出せません)ジャズの世界で歴史に刻まれる活躍をしていたことをどれほどの日本人が認識しているでしょう。



名演としてご紹介したのは秋吉敏子ルー・タバキン ビックバンドの第二作目「ロング・イエロー・ロード」 この時代の敏子〜タバキンバンドはすべてお奨めですが、一作目の「孤軍」はアメリカで孤軍奮闘する秋吉さんの思いが、「ロング・イエロー・ロード」東洋人としての長い道のりを表す表題でもあります。「ロング・イエロー・ロード」第一曲目ではフルバンドのドライブ感が存分に味わえ、ルー・タバキンの第一級のソリストとしての力量を楽しめます。そして私が個人的に大好きな第二曲目「ザ・ファースト・ナイト」この曲以前にも以後にも、ジャズのフルバンドでこれほど美しいフルートのアンサンブルを聴けることはありません。その後のボビー・シューのフルーゲルホーンのソロも含めて、この曲を聴くためだけでもアルバムを購入する価値があります。


実はこのアルバムが発売された当時、所属していた学生バンドのアメリカへの演奏旅行の途中、L.A.で敏子〜タバキンバンドのリハーサルを見学する機会がありました。目の前、手を伸ばせば触れることができる距離で聴くルー・タバキンさん達サックス陣が奏でるフルートのアンサンブルは、唖然として凍りついてしまうほどの迫力がありました。なかでも主役のタバキンさん、一人でほかの四人のフルートの音を凌駕してしまうほどの音量と表現力、「この人は間違いなくジャズ界NO.1のフルート奏者だ!」と確信する演奏が繰り広げられました。


ジャズ好きの間でもフルバンドの迫力を知る人は少数派です。映画「スウィング・ガール」に感動したあなた、日本が世界に誇る秋吉さんのビックバンドを聞き逃してはいけません。