擂り鉢(すりばち)

clementia2009-01-06



年末に酷使してモーターが動かなくなってしまったスピードカッターを修理に出しました。ですから年明けは久しぶりに擂り鉢の登場です。


「職人がスピードカッターなんて使えるかぁ。擂り鉢と馬の尻尾の毛で編んだ裏ごしでなくちゃぁいい仕事はできん!」などという意固地な職人気質は微塵も持っていないので、文明の利器が壊れたので仕方なく擂り鉢・・・なのです。


で、
久しぶりに擂り鉢仕事を続けると肩の辺りが痛くなってきます。なまったものです。修行時代、教えてもらった七色の擂り粉木(すりこぎ)回しの秘儀はどこへやら。・・・なぁんて大げさですが、擂り鉢に入れる食材によって少なくとも4-5種類の擂り粉木の回し方を駆使できたことが修行時代の自慢の一つでした。修行三年目に擂り鉢仕事を立板に任されたときは緊張すると同時にとても誇らしかったことを憶えています。擂り鉢仕事をするためには7品 9品ある料理のうちでどこの皿がどんな料理方法で擂り鉢を使う仕事か。そのための食材と調味料を立板が出勤するまでに順序良くそろえ、煮方や向板にどの段取りでまわすべきか、朝の仕込みの段取りを頭で理解していないとできない仕事の第一歩であったのです。ムスッとした顔で調理場に入ってくる立板の脇について、立板の頭に描いた今日の段取りを推し量る緊張感。つまり追廻から職人に片足を踏み込んでよろしいというお墨付きをいただいたようなものであったのです。初日に浴びせられた「あほっ!!」の連呼から一年を経て、最初から最後まで一言も発せなくても仕事があうんで進むまで・・・その一年は擂り鉢の前に立って少しづつ料理を理解していく実感を手にできた一年でした。


擂り鉢がスピードカッターに変わってしまってそういう職人の成長を実感する仕事はなくなってしまったのかもしれません。