お見送り


お客様のお見送りをすることはとても大切だと思っています。


たぶんこれまで、99%のお客様のお帰りを直接私がお見送りをしています。日本酒やワインをご注文される方のお部屋には私が伺ってお好みを聞いたり、ご飯を一部屋ごとに炊く場合にも私が伺いますので、お客様と触れ合うことができますが、時にお帰りまでに一回もお部屋に伺わない場合もあります。そんな時でもお見送りの時にはお顔を見て「ありがとうございました」と申し上げ、店先までお見送りすることで、今日のお客様の印象が推し量れます。お客様の顔を見ることは料理人にとってとても大切なのです。


どこのどなたに自分の料理を食べてもらっているのかわからない料理人と、お客様の顔を見ている料理人では意識の上で雲泥の差が出ます。「この皿はあの方が召し上がるのだ」と一皿一皿認識していることがどれほど大切なことか、料理人は肝に銘じておくべきです。たとえば恥ずかしい仕事をしてしまった後にはお見送りをすることもつらくなります。自信をもてる仕事をしているときには胸をはって「ありがとうございました」「うん、美味しかったよぉ」のやり取りができるのです。


私が食べる側であった場合にも最後に料理人の顔が見られたほうが絶対に店の印象はよくなります。


・・・・と信じている私なのですが、「お見送りをしていること」で評価をしていただいたことは一度もありません。私ン処のお客様には当たり前のことなんでしょうね。



で、
週末、不覚にもお得意様のお見送りができませんでした。一度も欠かしたことのない方々のお見送りができなかったことが悔やまれてなりません。お帰りの際に必ず軽口のやりとりがあることも楽しみであったお客様のお見送りが、一つのお座敷のお客様がどうしても離してくれなくてできませんでした。大概の場合スタッフが襖を開けて「親方、お願いします」と声をかければ、すっとひけるタイミングになるのですが、それもダメ。お椀の吸地に塩を入れ忘れたような残念な感じ、休日の一日も休まりませんでした。ああ。(こんなところで言い訳をしていてはいけないんですが。。。)