プリンに負ける
「ご飯が終わった頃に「ラ・ヴェリテ」のご主人がケーキを届けてくれるんだけど、それ、食べてもいい?一緒に食べましょ」とお得意様がおっしゃいました。
誕生日など、ケーキを持ち込まれる方もいらっしゃいますので、お安い御用、ご相伴させていただけるとあれば尚のことです。
この地で「お奨めのケーキ屋さんは?」と聞かれたら「ラ・ヴェリテ」さんと”Abondance"さんの名前が真っ先にあがります。この二軒がこの地のケーキの水準を守っているといっても過言ではないと思うほどのふたりのパティシエ。
「ラ・ヴェリテ」のご主人は「ジョージアンクラブ」シェフ・パティシエを務めた方、今回はご自身のケーキ店では出しにくいグランメゾンのデザートにワゴンで出すようなシロモンなんだとか。
一通りの料理が終わりご飯まで出し終えた後、オーナー・パティシエ自らが持ってこられたのは「プリン」 直径20数センチはあろうかという大きさです。ご相伴させていただくと、それは確かに普通のプリンなのに普段食べるプリンとは別のものです。滑らかさといい、モッチリ感といい、程よく濃厚な味わいといい、カラメルソースのぎりぎりで抑えた上品な苦味といい、たっぷり乗せられた馥郁としたバニラの香りといい、「これがプリンです」といわれたら、世の中にたくさんあるプリンは全部「なんちゃってプリン」かもと思うほど、全部が確かにプリンなのに全部のレベルが違います。コンビニのプリンも、やわらかいことだけをひたすらもとめる「フワフワ○○」も王道には比べるべくもありません。
「なんか特別な手法とか特別な材料とかがあるんでしょうねぇ」と伺うと
「いえいえ、ウコッケイの玉子と厳選の生クリームたっぷりと・・・って言いたいところなんですが、普通の玉子と普通の牛乳と、生クリームだって10%くらいしか入ってませんよぉ」とおっしゃいます。
これは職人の技術としかいいようがありません。
「親方のデザートも頂戴ね」というお得意様の悪魔のようなお言葉に「近所の不○屋で買ってきたデザートです」と言いながら私のデザートも召し上がっていただきました。
その日の数品の料理と極上のつもりお出ししたお酒の数々は、最後のプリンの印象にすべてかっさらわれていきました。恐るべし職人の力。