品揃えを見抜く力


たまに知り合いから「お奨めの酒屋さんを教えて欲しい」と頼まれることがあります。


後日「で、どうだった?いいお酒見つかった?」と聞くと。


「ざっと陳列冷蔵庫見たんだけど、飲んだことある蔵ばかりだったから買わなかった」と言われたりします。


先日もお付き合いのある酒屋さん(知人に奨めた酒屋さん)に伺うと、私がご主人と話をしている間にも次々とお客様が冷蔵庫からボトルを選んでレジで支払いを済ませていきます。


「ああ、これかぁ」と思わず納得します。


多くのお客様はご主人との会話もなく、自身で眺め自身で選んでいくのですね。確かに陳列冷蔵庫には聞いたことのある名前の蔵のお酒が多く並んでいます。「○○・・・ああ、この蔵のお酒知ってる」と単純に考えてしまうのです。


しかしながらそのお店に並んでいる○○は、たぶんこの店を含めて全国でも10軒にも出荷していないはず。別の□□は年間300本しか生産されていないはず。同じ○○、同じ□□でもその辺の酒屋さんにある○○、□□とはレベルが違うことをご存じないのです。で、それらはご主人との会話の中で説明されるシロモンなのです。


いい酒屋さんに伺ってご主人とのお話無しでお酒を選ぶというのは、お宝を目の前にして通り過ぎているようなものです。志のある酒屋さんでは希少なお酒を置いていても、それぞれにポップを書いて陳列などしていないところがほとんどです。お宝をお宝と判断できない人はご主人とのお話の中からしか判断できないのです。


件の知人のお眼鏡にかなわなかったこの酒屋さんでも、今回、未知の蔵のものが二種類、今まで味わったことのない蔵の金賞酒が二本、全国9件にしか配布されない限定の焼酎が一本。ふだんからそれなりにアンテナを高くしているつもりの職人でも食指が動く新しい品物が数点入荷しているのです。年に数回車を飛ばしていってもそんな具合なのです。それらはこれ見よがしには並んでいません・・・が、私の素性をよくご存知のご主人は真っ先に「親方にはこれとこれとこれ」と奨めてくれます。その上でそれらのお酒の詳しいお話を充分に教えてもらうことができるのです。自分で陳列冷蔵庫から選ぶだけでは店の能力の30%も理解していないことになるはずです。


さらには話を進めるうちに「そうそう、店には出してないけど△△が二ケースだけ入ったけど使う?」とスーパーレアなお酒まで登場します。


いい酒屋さんからいいお酒を引き出すために必要なのは、奨め甲斐のあるいい客になること。自分のこれまで飲んだお酒の自慢をとうとうと披露したり、陳列していない蔵のお酒を必要以上に褒めちぎったり、逆にけなしたりする方にはそれなりお酒しか出てきません。第一級の店には一流の客となるべく虚心坦懐な姿勢が望まれるような気がします。


などと大きなことをいう私は、これまで散々失敗を重ねたからこそたくさんの反省の気持ちもこめて言うのです。