魯山人あらためて


前々回にお話をした「知られざる魯山人」 やっと星岡茶寮での活躍から失墜の部分にたどり着きました。料理人にとっては一番ワクワクするところです。


そこであらためて気づいたのが、星岡茶寮の隆盛期というのは大正14年から昭和11年までのたった十年少々であったこと、しかも当時魯山人四十代から五十代、ちょうど私が今の店を新装してから今までと同じくらいの時期であったのでした。記憶にはあったつもりでも正面から突きつけられると、凡人と天才、その開きの天文学的なことに呆然としてしまいます。


当時の世相やら料理屋事情のごく一部を祖父から聞いていた私には、星岡茶寮魯山人のなした偉業がどれほどぶっとんでいたことかが世間並み以上には理解できます。この本では他の項に比べると星岡茶寮での様々な伝えられる逸話はあっさりと書かれていて、いままで資料が少なかった星岡窯の素晴らしさにページが割かれています。


そして、今ではありえないあくの強い性格と天衣無縫な所業の数々が、これまでの数多くの著書よりも肯定的に書かれているがために人物像も、よりリアルにイメージしやすくなってきました。確かに明治生まれの男性にこういう破天荒な敵を作りやすい人物はいました。私の周りにもこの手の出来れば近づきたくない、しかしながら影響力の強い人物が毒を撒き散らしていました。「ああ、あの人のイメージ」と想像できるのです。今では一切見かけないこの手の人物、あれは時代が作ったという側面もあるのでしょうか?