培われたもの


超高級料亭でも行われていた使い回し、あのクラスの店がやっているのなら普通の店はどこでもやっているんじゃぁないか・・・・多くの方がそう思われても不思議ではない。そんな論調がまかり通っていると知って呆然とします。


叔母から聞いた話なのですが、亡くなった祖父は、「料理屋はどんな小さなものでも一度お客様にお出ししたら、手付かずで残っても絶対に廃棄しなさい」と言っていたといいます。「そういう所業は従業員の口から必ず世間に広まる」とも。


この話は私が祖父や父から直接聞かされたことではありません。店にはそういう不文律が特に不思議でなく受け継がれていて、私なぞ幼い頃から「そういうものだ」といわれるまでもなく信じていました。これは店全体の調理場全体の雰囲気なのです。お客様の余りモノを従業員が持ち帰る店では、新人もあっという間にそれが当たり前になるもので、どんなことがあってもつまみ食いはできないという雰囲気があれば、規則として明文化するまでもなく調理場の空気がそうなります。


祖父の使い回しを戒めた言葉以上に、「従業員の口から・・・」という、当時は言葉さえなかった内部告発への警告の言葉は、まさに先人の教えというべきなんでしょうね。そこそこ長く商売をしているだけで伝統といえるものなどひとつもない店なのですが、こういうちょっとした培われたものに気づいた時に先代先々代のありがたさが身にしみます。