ボサ・ノバ


夏になると季節はボサ・ノヴァ・・・・というのは、もしかしたら世界中で日本だけのことかも。誕生の地ブラジルではすでに過去の音楽となっているのだそうで、若者が熱中する音楽では決してありません。でも、ジャズの世界は未だボサ・ノヴァは多くのミュージシャンが・・・というのでさえすでに古臭い考え方です。「イパネマの娘」や「ブルー・ボッサ」はホテルのラウンジなんぞでBGMとして流れることはあってもレコーディングに取り上げられる曲ではなくなっています。


それでも、誰がなんと言ってもボサ・ノヴァは美しいのです。


映画This is Bossa Novaは伝説となったボサ・ノヴァ誕生の歴史をインタビューでたどったドキュメンタリー映画です。カルロス・リラがホベルト・メネスカルがジョニー・アルフがドアン・ドナートがワンダ・サーが、半世紀前に目の前で起こった奇跡を語ります。ヴィニシウスがジョビンがジルベルトがナラ・レオンがボスコリがニュートン・メンドーサがどんな風にして音楽を造り上げていったかを。いい年になったリラが「ロボ・ボボ」の単純な基本3コードをギターで弾きながら歌った後、サラサラサラと風がそよぐように軽やかに、しかも複雑で洗礼されたボサ・ノヴァに変えてしまうしまうシーンなどはマジックとしか思えません。ああやってきらめく才能たちが夜な夜な集まっては語り合い、歌いあい、弾きあったのでしょう。新しい音楽が誕生していった感動は彼らの話を聞いているだけでもドキドキするほど感じられます。


といっても、普通のボサ・ノヴァファンの私には知らない名前(でも高名)がたくさん出てきます。ちゃんと勉強してもう一度見たいなぁこの映画。


なにしろこんな一部のファンにしか受けない映画を、田舎町のシネコンがもってくるはずがないとあきらめていて、DVDが出たら・・・と思っていた矢先、一週間だけの上映であったのです。普段なら絶対にはずせない休日の家族との食事の時間をパスして出かけました。観客は日曜の一回だけの上映なのにたった9人(プレミア・スクリーンで¥1000なのに) やっぱりボサ・ノヴァファンは極少数派なんでしょうね。「小野リサは大好き・・・でも、ナラ・レオンって誰?」ってなファンが、日本のボサ・ノヴァをかろうじて支えているのかもしれませんね。映画が終って通りに出ると、カフェのテラスに集まるブラジル人の若いグループがいくつか。彼らだって「ナラ・レオン?知らない」・・・のはず。でも休日の夜にワイワイ集まるブラジル人の気質がボサ・ノヴァを生んだことも事実です。