予約のわけ


「お越しの際にはできればご予約を」を申し上げるようにしています。


予約無しでもお部屋が空いていればご案内できることはもちろんなのですが、一品料理を中心にしている店ではありませんので、予約をいただいてその予約のためにしっかり準備をすることをとても大事にしています。大げさに言えば、お越しいただく30分前には料理の80%は出来上がっているといっても過言ではないのです。


例えばお造りの白身、6時間以上前に活け〆にされて、ご来店の時間に丁度いい熟成を迎えられるようにしています。


例えばお椀、ご来店の直前に出汁を引いて香りが高いことを目標にします。椀盛りのすべての食材は午前中のうちに焚いたり蒸したりして、半日冷まして味が含まされるようにします。


例えば煮物、もう最終になった乙訓の筍は前日に下茹でされ、当日の午前中に味をつけて半日のうちに味がのるように仕立てます。お客様がお越しになってから焚いているようでは味は乗らないのです。逆に来る来ないかわからない一見の客のために味をつけてしまったものを翌日の予約のお客様に出すわけにもいかないのです。


例えば焼き物、今日使った黒むつの幽庵焼きは、薄めの幽庵地に五時間つけることで淡くてしっかりした味わいの焼き魚になります。急に見えたお客様に「五時間お待ちください」とは言えません。


などというわけで、その日の予約をいただいたお客様のための仕込みは最低でも半日、モノによっては前日前々日から「あなたのための」仕込が始まり、ご来店の時点では仕上げるだけになるのです。予約無しでそれと同等のものを作るのは至難の業です。



さらに、お越しの時間に合わせて前庭を掃き清め、水打ちをし、お香を焚き・・・という準備も進みます。ですから30分早くお見えになって、のれんも出ていない、水打ちもしていない、お香も焚いてない・・・ではお足を頂戴すること自体心苦しく思えてしまいます。時間を定めて予約をいただくということは、料理屋にとってはとても大切な段取りのための目安になるのです。


是非、よりお気持ちよく過ごすためのご予約を。