座持ち


私たちの世界で「座持ち(ざもち)がいい」というのは、今で言う「盛り上げ上手」というのとはちょっと違うような気がします。


その場を盛り上げるというよりは、すべての客を持て成し、心地よくする術を知っているというほうが近いかもしれません。


例えば芸者衆でも美しく、座っているだけで絵になり人をひきつける魅力がある子よりも、座持ちのいい子のほうが結局売れっ子になります。ホステスさんなどでも同じなのだと聞いたことがあります。



先日、とある有名女優がお越しになったことがあります。経済界政界などのお客様の多さに比べると芸能系のご来店は限りなく0%に近いほど芸能界には縁のない私ン処には本当に珍しいことです。


で、
その女優さん。話に聞くオーラを感じるほどの美しさをもった女優は「私、女優よ!」というお高くとまった取っ付き難いところがあるものだとばかり思っていましたら、これが全く逆。これほど「座持ち」のいい女性は、売れっ子芸者でもありえないほど素晴らしい気配りを見せてくれました。


あっという間に十人ほどの宴会の初対面の方々の名前を覚えてしまい、話をあちらの方からこちらの方にふっては座を盛り上げます。といっても、自分が話題の中心になっているわけではありません。その間に飲物に滞りがないか気を配り、お酌を忘れません。私などのようなものがお酒をもってお席に入れば、料理やお酒を持ち上げることもさりげなくなさいます。もちろんスタイル抜群で見惚れるほど美しい。しかし外見など関係なくその人柄にお席の全員がうっとりほれてしまっていることがわかります。


お帰りの時も車の中からめいっぱいに手を振り、「今日はお酒も料理もやられちゃいましたぁ。ありがとうございましたぁ」これで惚れない料理人がいたらよほどの鈍感なヤツです。


もう一生あなたの番組は見逃しません。そう固く誓う私でした。


傑出した人というのは違うものです。