名演その26〜新星現る

clementia2008-02-20



中学生の頃からジャズに親しんできて、私にとって宝といえるのは、「マイルスと同時代を生きられたこと」とともに、「ハービー・ハンコック キース・ジャレット チック・コリアがいつもそばにいて常に進化し続けているのを見られたこと」です。


この三人のピアニストのことを語り始めると、一人について十回以上の項を設けたいほど思い入れがそれぞれにタップリあります。それほど三者が三様とも同じ位置に留まっていませんでした。


今日はまずチック・コリア


ジャズファンとしてはありがたいことに、チック・コリアの出現の驚きを目の当たりにすることができました。時間は若干前後しますが、「マイルスの処にスッゴイ若いのが入ったらしい」と聞いてのは1960年代後半、どのアルバムが最初だったのかは定かではありませんが、マイルス・デイビスの「キリマンジェロの娘」 チック自信のリーダーアルバム「ナウ・ヒー・シングス ナウ・ヒー・ソブス」 そしてスタン・ゲッツの「スウィート・レイン」このあたりのチックの演奏を立て続けに耳にすれば中学生と言えどもドキドキします。


中でも演奏の密度の高い「ナウ・ヒー・シングス ナウ・ヒー・ソブス」は十代半ばの幼い耳にはまだ少々ハードルが高かく、後に自分でもジャズの演奏に関わるようになるとその素晴らしさがグングン迫ってくるものでした。それよりも即私の心を鷲掴みにしたのが「スウィート・レイン」 こんなリリックなピアニストは当時どこを見渡しても存在しませんでした。デビューしたてですでにone&onlyであったのです。メロディーが美しいだけでなく、そのリズム感の躍動ははちきれんばかりの才能をそのまま現しているようでした。同時にこのアルバムでは、ベースがすでにマイルス・グループで最大級の賛辞を浴びていたロン・カーター、ドラム界の重鎮グラディー・テイト。そして巨匠スタン・ゲッツ。マエストロたちの中で若いチックが自在に自らを表現しているのです。(その後のゲッツのツアーグループは確か、チック・コリア、デイブ・ホランドジャック・ディジョネットという今考えると夢のような若手トップクラス)


その後のチックは様々な演奏スタイルで変幻自在なグループを率い、常にジャズ界をリードしてきました。この変貌振りと、一つ一つのプロジェクトの充実振りを考えると、その偉大さはマイルスを越えるといっても過言ではないと思うのですが、誰の耳にも聴き易いがゆえに評価が実際よりも低いのが私には歯がゆく感じられます。


二年ほど前、音楽関係者200人ほどの前で一時間ほどのミニコンサートを開いたチックは、肩の力が抜け聴衆全員を巻き込んで素晴らしい演奏を繰り広げてくれました。これからさらにどんな新しい姿を見せてくれるのでしょう。ずっとずっと楽しみです。