産地不明

clementia2007-10-27



産地偽装ではないのですが、わかりにくい表示を消費者が信じ込んでいたものが案外違っているケースというのはよくあります。メディアで騒がれなければそのまま放って置かれるのかもしれません。


山形のダダ茶豆が全国区で有名になり始めた頃、同じ豆をすぐ南の新潟で作っても「ダダ茶豆」として売っていました。使う方にしてみると「ダダ茶豆」と書いてあれば稀少な山形産に違いないと判断して「山形産ダダ茶豆です」と料理してしまった時期がありました。すぐに商標登録をしたのか新潟産は「茶豆」と改定されましたが、今では新潟だけでなくこの地でも同じダダ茶豆の種を使って同じような品物を栽培する農家さんがいるようです。まっ、使う方にすれば美味しい豆であればどこ産であってもかまわないとも思うわけですが。


同じように丹波黒豆枝豆というのをご存知だと思います。有名な丹波産の黒豆の若い枝豆で、粒が大きくて味わいの濃い枝豆です。10年前は京都辺りの高級料亭でしかお目にかかりませんでしたが、この数年は秋になれば安定的に使える・・・と喜んでいた枝豆です。ところがつい最近知ったのは、丹波黒豆枝豆は丹波で作られるだけでなく岡山や丹波以外の京都あたりでもたくさん作られているのだということです。そう知ってパッケージを見てみると確かに産地の表示はありません。私ン処で使っていたものには「京都の丹波黒豆」とあります。普通の枝豆とは違ういい品物ではあるのですが、丹波産とばかり思っていたのはどうやら勘違いのようなのです。


そんな時、丹波篠山の農家生田さんからお知らせをいただき、「本当の丹波篠山の枝豆を是非」と紹介をしてもらいました。お話では実際に丹波篠山で作っている黒豆の枝豆は全国で作られる「丹波黒豆枝豆」の5%に過ぎないのだそうです。中でも今回送っていただいたのは枝豆が青々しいかった時期から黄色くなり始めたごくわずかの時期、たった二週間だけ出荷される品物なのだそうです。しかも無農薬で作られるのは農家さんの自家用のものがほとんどで市場に出回る量は天文学的に少量なのだとか。


普段枝豆を茹でるのは水○リットルに対して塩○g、茹で時間3分とキッチリ決められています。しかし「この丹波黒豆枝豆は15分は茹でてください」とおっしゃいます。「ほんとかぁぁ?」と三分、五分、十分、十五分と茹で変えてみると15分ゆでたものはむっちりほっこりして豆のコクと甘味がたっぷり出てきます。これはすでに枝豆とは違うシロモンであるといわなくてはいけません。さらに造り手生田さんの思いもたっぷり頂戴したような気がします。


お客様の顔を見てから茹で始め、湯でたてを召し上がっていただきます。本当に美味しい枝豆の時期は夏ではなく(以前にも書きましたね)今だったのです。「ビール 枝豆 TV野球観戦」の三点セットのように枝豆が夏の風物詩になったのは、消費者の傾向に農家さんが乗った旬の変化でした。しかし、「この野菜の美味しさはこの時期なのだ」という強い思いを消費者におもねずに作り続ける高い志を持った農家さんがちゃんといらっしゃるのは素晴らしいことです。造り手の顔の見える食材がまた増えたことが料理人としては本当にありがたいことです。