料理の人


この日記にも日本酒やらビールやらワインやら、お酒のことがたくさん出てきます。お店に見えられる一見のお客様も、調理長が自らお酒をお部屋にもっていってサービスするのが珍しいのか、ちょっとでもその分野に興味のある方はお酒の話をふってこられます。私自身のスタンスとしては、お客様の興味が向くようなら今選ばせていただいたお酒のお話をほんのちょっとする・・・さらに興味があるようならもうちょっと、という具合で、講釈を言いまくるためにお酒を自分でサービスしようとは微塵も思っていません。もちろん、料理にお話をふられれば料理のお話もするのですが、日本酒を抱えてお客様のお部屋に入れば多くの場合日本酒の話で盛り上がることになるのです。


となると、「あいつの興味は日本酒に向いているに違いない」さらには「この店の主人はお酒を選ぶ人なんだぁ」「日本酒とワインの両方を選ぶソムリエみたいなもん?」と私を「お酒の人」と思われる方がたくさんいらっしゃるようです。


とんでもない、仕事の割合で言えば8割は「料理の人」です。一割弱がお酒、一割強が経営の人・・・くらいかな。時間的に言えば一日の95%は料理の人です。朝から夜遅くまでひたすら料理の人なのですが、「あの店はお酒で売っている」と思われてしまうことが多々あるのですね。実際私の処においてあるお酒程度のものであれば、どんな料理人でも地道にマンコネクションを築けば手に入るもので、置くだけならだれでもできるシロモンです。手に入らないと嘆いているとしたらちょっとした努力を積み重ねていないだけのお話です。


極まれにですが、「あいつはお酒の人」と判断された自称酒通の一見さんになると、挑むようにお酒のお話をされてくるかたもいらっしゃいます。これが困っちゃうのですね。自分のお酒に対する知識と私の知識を天秤にはかり、勝った負けたで判断されることに一喜一憂する。私はあくまでお酒をサービスする人であってお酒の知識をご披露する人ではないのです。好みに合いそうなお酒を選ぶ、料理との相性、お酒の順番で序破急をつけながら飲み口のステージを盛り上げる、まつわるお話で喜んでいただけるようならちょっとお話しする。これはあくまで仕事の範疇で日本酒オタクでもワイン通でもありません。お酒を楽しむ人と売る人では基本スタンスが違うをいうことをご理解いただけるとありがたいんですが。


いや、本来挑んでくる方も上手に手のひらの上で遊んでいただく度量が私にあればいい話しではあるんですよね。