サラ・ヴォーン〜その続き


ホントもうしょうもない自慢話にもならないことなのですが、サラ・ヴォーンの前座をやったことがあります。


といっても学生時代に私が所属していたジャズ・バンドが東京でのサラ・ヴォーンの三公演での前座をやったということで、私自身は一年生でまだレギュラー・メンバーではありませんでした。彼女の”ライブ・イン・ジャパン”というアルバムはその時の録音です。


ステージに上ることはできなかったとはいえ、リハーサルから本番まで三公演とも伝説のヴォーカリストの身近にいれら、彼女のオフでのフワフワした魅力に接し、なによりもステージ袖で毎回デーヴァの歌声に浸れたのはもう夢心地の世界でした。荷物運びが主な仕事のバンドボーイであった私たちは、ステージ横の楽器ケースの上に腰かけ、真横からサラの歌声に聴き入るのです。今思い出しても背筋がゾゾゾとするのは、”オーバー・ザ・レインボー” 自然に涙が流れるほど素晴らしかったこの曲は、あれ以上の演奏には未だ接したことがないほどの感動的なものでした。もしかすると、ステージ袖という特別な場所が感動を生む原因だったのかもしれませんが。


世界ナンバーワンの女性ジャズヴォーカリストのステージに学生バンドが前座を務めるというのも、のんびりした昔の時代ゆえ許されたのかもしれません。幕が開いたらお目当てのサラではなくて、ビックバンドがいるとしたら今ならブーイングの嵐でしょうね。当の私たちは「せっかくなんだから歌バンもやらせてくれればいいのに」などと恐れ多いお話をしていたのもの、あの当時の若さゆえのご愛嬌であったのです。


サラと一緒に撮った写真は私たちの宝物です。歳をとってくると大昔のそんなことしか自慢できることがなくなってきてしまうんですね。