名演その24〜スウィング&ドライブ

clementia2007-10-23



ジャズを語るときに使われる言葉にスウィング グルーブ ヒップ クール ドライブなどという言葉があります。それらは言葉は説明をするよりも音楽そのもので示した方がわかりがいい感覚的なものです。


名演奏として名高いサラ・ヴォーン「枯葉」(原題”Crazy and Mixed Up”)の三曲目「枯葉」は、スウィングという身体が音楽に合わせてノリノリに動かしたくなるようなリズム、ドライブするというリズムがどんどん先をいって羽根が生えて飛んでいってしまいそうな感じ・・・の二つの感覚をまさに体現している名演奏です。


この「枯葉」、ただ聞いていると枯葉のメロディーはどこにも出てきませんし、歌うサラ・ヴォーンスキャットだけで「枯葉」の歌詞も一言も発しません。が、コードの流れを聴いているとまさに「枯葉」のコード進行であることがわかると思います。しかし、ここではこの曲が「枯葉」であろうが「ラ・ボエーム」であろうがなんだっていいのです。サラ・ヴォーンのありえないほど強力無比なスキャットと、老練なクァルテットのグイグイひっぱるサポートの素晴らしさだけを楽しむのです。


実をいうと名人たちのバックの演奏は、80年代以降に活躍している若い世代のジャズマンのように正確無比でタイトなリズムではなくて、どちらかというとどたばたした「セーーノ!ソライケェ!」的なノリだけでやっつけてしまうような演奏で(本来そうでない演奏もできる名人たちです)、ハロルド・ジョーンズのドラミングに助けられたような箇所がいくつかあるカッチリ正確なものではないのですが、聴いているファンたちを間違いなくワクワクさせる魅力に溢れているのです。これが老練なジャズマンたちの凄みなのです。正確で音の粒が立っている正しい演奏だけが名演ではなく、バタバタしていたってスウィング感とドライブ感のある演奏が人の心を熱くするのであることをこれほど物語っている一曲はありません。


このアルバムを手に入れたら、まず三曲目「枯葉」を聴き、その後最初からすべてを通して聴くのが正しい(?)聴き方です。「ジャズはよくわからん」というあなた、「ジャズはわかるわからんではなくて、音に魅了されるかどうかだけなのです」と大きな声で言いたい名演奏です。