ムルソーがムルソーになるための時間

clementia2007-10-17



ムルソーというのは、フランス ブルゴーニュ地方の白ワインです。


大好きなワインですので、店のセラーにもアルノ・アント、マダム・ビーズ、ルフレーブ、ミクルスキー、ピエール・モレ、コント・ラフォンなどの有名な造り手のムルソーが寝かされていて、日本料理店としてはそこそこのラインアップであると秘かに思っています。


なかでもアルノ・アントはこれまで何度もこの日記に登場した造り手で、初めてであった1997年ヴィンテージから追いかけ続けたいと思ったワインです。何しろ全般には不出来な年と言われた1997年でさえ素晴らしい凝縮感があるワインでしたから最初からぞっこんであったのです。


まだ日本中でごく一部の人しか知らなかった造り手であった2000年当時に、アルノ・アントの未来を感じた1997年のヴィンテージ、続く年も間違いないはず、ワイン評論誌の評価は1998年は1997年を上回っています。ところが入手した1998年を飲んでみると・・・「あれ?」「こんなはずでは」「どこが1997年より優れているのだ?」・・・果ては「あれほど将来を感じるなどと思ったのに一発屋だったのか?」


硬く閉じているというよりも、1997年とは別物の味わいに愕然とし自分の見る目のなさに呆然としてしまったのです。とはいえ、1997年と同じく三年を経て試飲した味わいだけではヴィンテージの格差もあって判断はできません。5年を経てさらに7年を経てさらに・・・と味わって見ても最初のがっかりした印象は変わりませんでした。今年の春9年目でもダメで諦めかけた初秋、その時がやっとやってきたのです。アルノ・アント1998年がムルソーの本来の姿を見せ始めてくれました。


1997年はたった3年でムルソーの姿をしっかり見せてくれていたのに、一年違いの1998年は9年半もかかったのでした。待っててよかった、私が見込んだこの娘は美しく変身しました。本来ムルソークラスの白ワインは10年を経てやっと美味しさが現れるといわれますが、いい造り手のワインは若くてもそれなりに将来が見えるものです。これほど行く末が見えなかった(私のヘボな舌ゆえですが)ワインは初めてで、これほど変身が美しかったワインも初めてです。


ワインの難しさはできたばかりの若い時期にそのポテンシャルを的確に判断できるかどうかです。5年後10年後の味わいを正確にイメージして何年寝かせればお客様に評価していただける味わいになるのか。アルノ・アントのムルソーは未熟な私には難しいけれど喜びも大きいワインでした。