ギドン・クレーメルのバッハ


先日話題にした吉田秀和さんは、奥さんを亡くされ虚無感に襲われ続けた時、音楽さえ聴く意欲がなくなった時期があったのだと語られました。そんな中でも、バッハ、モーツアルト、ベートーベンだけは苦痛でなく耳に入ってきたのだそうです。


PCに落とし込んでMP3で久しぶりにクラシック三昧で聞いているのは主にこの三人。


昨日自転車に乗りながら聴いていたはギドン・クレーメルの「バッハ無伴奏バイオリン組曲」 この二〜三年イツアーク・パールマン無伴奏ばかりを好んで聴いていましたので、クレーメル自体が久しぶりです。時として突然打たれたように音楽の素晴らしさに触れて呆然とすることがあります。ギドン・クレーメルの弾くソナタ一番プレストはまさにその瞬間でした。こんな凄いプレストとを今まで何気なく流して聴いていたのです。ものすごいスピードというだけでなくのドライブ感のある躍動と、一つ一つの音にこめられた丁寧なニュアンスが渾然となって頭の中がバッハの音の洪水に浸されます。思わず自転車を止めて曲が終るまで道端で聴き込んでしまいました。楽譜に書かれた単純な音の繋がりが、ここまで豊饒に芸術として表現されていることが奇跡にさえ思えます。


朝からこの一曲だけで心は満たされ幸せな気分になれます。



話題になっているドゥダメル
ドゥダメルの振るシモン・ボリバル・ユース・オーケストラの「ベートーヴェン:交響曲第5番「運命」&第7番」を手に入れて聴いてみました。これが、26歳の指揮者と若者ばかりで構成されるオーケストラであることが信じられません。ダイナミックにベートーベンがうごめき、躍動します。音楽を奏でることの喜びがCDからあふれ出そうなこの音を聴けば、サイモン・ラトルをして「今まで遭遇した中で、もっとも驚くべき才能を持つ指揮者だ」と言わしめ、クラウディオ・アバドに「ドゥダメルと彼の若いオーケストラの音楽に対する情熱に、私は深い感銘を受けた」と語らせたことが十分に納得できます。ベネズエラには上手に楽器を弾こうという教育はきっとなくて、音楽はこんなに素晴らしいものだ楽しいものだ・・・ということを伝える教育だけがあるに違いありません。


ハニカミやらハンカチに自ら踊るメディアは、こういう若い才能にこそ目を向ける審美眼はないものかねぇ。