名演その17〜インタープレイ

clementia2007-03-03



ジャズを定義するものにアドリブとインタープレーがあります。アドリブは即興演奏、インタープレイは演奏者がお互いの音を聞きながら発展していく演奏のことです。


たとえば先日お話したメセニー〜メルドーなどはインタープレイの究極の一つと言えます。


もうひとつのインタープレイの究極として「名演」として紹介させていただこうと言うのが、マイルス・デイビス・グループのライブ録音「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」です。


私にとってマイルスは神様と同じ存在で、愛聴盤といえるアルバムが数え切れないほどあるのですが、これまで一番たくさん聴いているのは間違いなくこの「マイファニーヴァレンタイン] 隅々までなめるように聴いていたい録音なのです。


実は今回久しぶりに「名演シリーズ」を書こうと思って、アルバムを聴き直そうとLPに針を落とすとあっというに間惹き込まれ、二度三度聴きなおしては「この名盤のどの部分を書いたらいいものか・・・」と、無数にちりばめられた聴き処の数々にPCに向かえませんでした。




1964年2月12日 この日ニューヨークのリンカーンセンターには神が舞い降りました。「今日お前たちに特別な力を与えよう」とでもいう様に奇跡の演奏が繰り広げられたのです。


一曲目「マイファニー・ヴァレンタイン」 導入部でハービー・ハッンコックのきわどく美しい音を積み重ねたピアノに促されるようにマイルスのテーマが入ってきます。♪My Funny Valentine ♪ Sweet Comic Valentine ♪ お馴染みのメロディーは四小節しか吹かれません。 続くのはマイルスの伸びのあるブルージーなフレーズのトランペット。導かれるようにロン・カーターがG C/G C/とリズム小刻み始めます。ここから続くマイルスのソロはもちろん神の仕業ですから素晴らしいのは当然なのですが、ロン・カーターのベースは神憑り的です。この時期のマイルス・グループのリズムを引っ張っていたのは、マイルス自身も語っているようにドラマーの天才アンソニー・ウィリアムスであったのですが、この曲と次の”All of You”はロン・カーターがリズムを造り上げています。スィングだけではない「グルーブ」するというのはこういうベースがタイムを刻むからです。そしてグルーブ感だけでなく、トゥービートを刻みながら二拍三連 シンコペーション 三連符がマイルスのソロに寄り添うように緊張感を与えるのです。さらに一旦マイルスがブローするとアンソニーのドラムスが一瞬に炸裂し、ハンコックが鋭いバッキングを加えるのです。そういう張り詰めた演奏は、ハンコックのピアノソロでも続き、二曲目の”All of You”のピアノソロで頂点を迎えます。ハービー・ハンコックのピアノソロ、特に2コーラス目は様に歴史に残るものです。美しいフレーズと複雑なリズム(アンソニーがさらに複雑にします)華麗な構成力、ライブの録音であることを忘れてしまうほどです。


ああ、できることなら四小節づつ解説したいほど、あらゆるところにその一瞬にしかありえないインタープレイが聴けます(特に1曲目2曲目)「なぁぁんとなく聴きやすくてカッコイイ演奏」というほどの聴き方でもよいですが、一音も聞き逃さないほどの緊張感を保ったまま聴き込むと、その演奏の素晴らしさは何年何回聴き続けても褪せることがありません。お互いが会話をするように演奏する・・・なぁぁんて情緒的に定義するのはこのアルバムを表現するのに陳腐すぎます。グループ全員の感覚が研ぎ澄まされ、お互いが高みに極まった時にこの瞬間があったはずです。


私が一生聴き続けるアルバム。