ドリーム・ガールズ


歌が上手ければ歌手として売れるわけではありません。


ずっと昔からダイアナ・ロスを見ても「なんでこんな薄っぺらな歌声の黒人歌手が売れるんだろう?」と不思議でなりませんでした。一番最近(とはいってもかなり昔)ではプラシド・ドミンゴシャルル・アズナブールダイアナ・ロスの三人のジョイント・コンサートでは存在感はともかく、歌声の説得力はドミンゴ、アズナブールに遥かに及ばないロスの存在はやっぱり私には売れてるのが不思議・・・なのでした。そんな私の若い頃からの疑問はこの映画「ドリーム・ガールズ」でスッキリしました。当時人気だったダイアナ・ロスシュープリームスは、歌の上手さではなく、そのロスの美しさとスタイリッシュな楽曲で白人に受けることでモータウン・レコードのドル箱スターになったのでした。1960年代公民権運動盛んな頃のアメリカ(しかもデトロイト発)、ショービジネスの世界の躍動を念頭に置けば今ならロス=スパースターの理由がよくわかります。モータウンのマーケッティングが見事であったのです。


この映画でビヨンセダイアナ・ロスよりも遥かに歌が上手くてクラクラするほど美しいのです。かわいらしいデビュー当時からスーパースターへとのし上がっていく彼女の華やかな変化は、私の目を釘付けにしました。巷では助演のジェニファー・ハドソンビヨンセを食っているといわれますが、歌の上手さはともかく、美しさの存在感は特筆すべきものです。


そして音楽。「ビヨンド・the・シー」のケビン・スペイシーでも、「五線譜のラブレター」のケビン・クラインでも、「ウォーク・ザ・ライン」のホアキン・フェニックスリース・ウィザースプーンでも、「シカゴ」のレニー・ぜルウィガーとキャサリン・ゼタ・ジョーンズでも・・・・ハリウッド俳優は全員が歌手並の歌唱力をもっているのではないかと思うような映画ばかりであったのですが、「ドリーム・ガールズ」でも、エディー・マーフィーが上手いのは当然と思いつつも、ジェイミー・フォックスや果てはキース・ロビンソンまでもがそのままブロードウェイに出られそうなくらい歌えるのです。極めつけはもちろんジェニファー・ハドソン。歌を聴いているだけで涙が出てくるような経験はそう何度もありません。ポンニチ流行歌手もバラードを歌い上げるのが大流行りですが、こんなものを聴いてしまえば「わが道を誤ったのではないか」と自らに問うくらいの謙虚さが欲しいと思います。


歌が上手ければ売れるわけではないのですが、歌が上手いことは人の心を動かします。
流れている民族の「血」が違うのですね。