11年ぶりの感嘆


それでもボクはやってない」は周防正行監督11年ぶりの映画、昨日見てきました。


あるインタビュー番組で周防さんが語っていた「映画というのは一度動き始めてしまうと、莫大なお金と人が関わってしまうものなので、安易にはgoサインが出せないのですよ」という言葉が印象的でした。また、別に「有難いことに”SHALL WE ダンス?”の後、ハリウッドからもいくつかのオファーがあったんですが、それらはボクがハリウッドで撮らなければならない意味を感じるものではなかったんです。ボクにとってはハリウッドで撮ることが目的ではありませんから」とも語っていました。


11年間わいては消える様々な企画とオダーの中で手にとったのが、痴漢をめぐる刑事裁判を描いたこの映画でした(あの脚本の取材と執筆にはどれほどの時間がかかったんでしょう)そこには殺人も、背負うべき人生も、複雑にからまる人間模様もあるわけではありません。無機質な法廷と満員電車と留置場と同行室があるだけなのに二時間はグイグイとスクリーンに惹き込まれるのは、第一に骨太で練りこまれた脚本があるからです。


周防さんは「愚直に地道に取材してそれを積み重ねただけなんです。後はどうやって削っていくかで映画ができます」と語っていました。自らが面白いと感じるテーマを見つけ愚直に地道に積み重ねる・・・・私が普段職人の仕事のあり方として標榜する手法と同じです(現れる結果には天の地の開きがありますが)そこには「感動をありがとう」もなければ、「利潤の追求だけを目的にした手法」もありません。


俳優も演出も主題を見据えた緻密な脚本も素晴らしい映画なのですが、なにより周防正行監督の底力をまざまざと感じる映画でした。彼と同時代同世代を生きていることが幸せです。