お酢になる?

clementia2006-12-14



「お酒をそのまま放置しておくとお酢になる」と信じている方は多いと思います。


が、少なくとも私はお酢に変化したお酒は未だかつて飲んだことがありません。本当にお酢になるのでしょうか?お酢にならずに「熟成」して驚くようなお酒はたくさん飲んだことがあります。



私のところには自慢の「達磨正宗昭和54年純米甘口果実香」を頂点にして、様々な古酒のラインアップがあります。冷温で寝かせゆるやかに熟成したものはもちろん、常温で20年以上寝かせたものも存在しています。


写真は「梅の宿」特醸限定酒紅梅です。製造年月日はすでに判読できず、清酒二級と記してあります。おそらく昭和60年前後のお酒ではないかと思われます。もちろん今の梅の宿では造られていないお酒で、蔵にも残っている可能性は少ないお酒であるはずです。特筆すべきは「生」。火入れをしていないお酒を常温で寝かせておいたお酒であることです。普通に火入れをしたお酒でさえ台所に置きっぱなしにしてあれば酢になると信じられているのに、タダでさえ常温では壊れやすい生酒の熟成酒なのです。


「生」は温度管理が難しく、必ず冷温で管理されるお酒で、酒蔵も温度管理が行き届いていない酒屋には決して生酒を売らないものです。私ン処でも「生」と書いてあれば普通以上に温度に気をつけるもので、温度が高い処で劣化するといわゆる「生ひね」という香りが出てきて飲めたものではないお酒になってしまいます。杜氏さんはこの「生ひね」をとても嫌います。


この「梅の宿」は常温に忘れられていたお酒ではなく、意志をもって「生酒を常温で寝かせておこう」と熟成されたものです。もちろん生ひねは起こります。ひね、壊れてしまった生の酒が捨てないでその後じっと20年近く寝かされると、生き返り新た顔が見えてくるのです。熟成酒の新しい顔です。


このお酒、飲んでみると私にはヴィンテージマデラのようなニュアンスが感じられました。長い熟成を経てひね香とともに味の奥行きが出てきています。


この世に二本とは存在しないこんな日本酒の歴史を味わえること自体が興味津々ではありませんか。



あーーーー!
新潟の「村祐」がTV番組に出てしまいました。


この蔵はこういう形でメディアにいじられちゃぁいかん。あの味が全国区で受け入れられるのは嬉しいけれど、明日から問い合わせの電話がバンバン・・・というのが怖い。100石しかない蔵が森伊蔵十四代みたいにプレミア市場でどうかなってしまわないことをひたすら願っています。ひそかにジワジワわかる方だけに染みとおるように人気が出るのがいいんですけどねぇ。


私ン処でも「辛口頂戴」というお客様には絶対に出さない「村祐」  そういう方が「村祐っていう美味いお酒があってさぁ」なんていう時代が来るかもしれない。そうしたら大笑いしてやります。