お墨付き


海外経験の長い方が、日本料理が恋しくてやっとの思いで見つけ出した「日本料理店」の暖簾をくぐると、現れる料理は日本料理とは名前ばかり、クレープで巻いたイクラ軍艦巻きとか、カリフォルニアロールがヘンテコに発展して寿司とはかけ離れたものが出てきて肩をガックリ落とすことがあるのだそうです。調理場ではワンさん、チンさん、ホセさん、ゴンザレスさんが包丁を握り、経営者はキムさんなどというケースも少なくないと聞きます。


見るに見かねたお上(オカミ)がお墨付きを与えて、本当の日本料理を認証してあげようというニュースが出ていました。思惑は日本の食材の輸出促進のためであるようなのですが、お上のやることにはどうしても反発したくなる私は、「んじゃ日本はどうなのさ」と疑問符をつけて斜に構えてニュースを眺めてしまいます。


本来の姿を知らず、食べたことも見たこともない料理人が、「それ、”おじや”じゃぁないの」というリゾットを作り、「うどんにしたほうが美味しいかも?」と思われる和風パスタを作り、「刺身との違いは上にかかったオーロラソース?それでカルパッチョって呼ぶの?」という和風カルパッチョを作って、「創作料理である」と胸を張るのです。イタリア人が見たら「日本のイタリア料理にこそお墨付きを」と思うかもしれません。


同様のことは焼肉しか存在しない多くの韓国料理店にも、餃子とラーメンを長いこと中華料理だと思っていた料理人にも、日本のカレーライスはインドに持っていっても恥ずかしくないと考えていた料理人にも、ほんの四半世紀前のほとんどのフランス料理店のフランス料理にも言えることなのかも知れません。


もちろんすべては日本人に親しみやすい形で発展してきたのではあるのですが、本当の姿をしって愕然とした経験がたくさんある私には、お上の考える日本料理のお墨付きと、巷にあふれる多くの各国料理と創作料理は同列のものに思えて苦笑いをしてしまいます。


日本でフランス、イタリア、中華料理に真摯に取り組む料理人、逆に外国で日本料理を日本の半端な料理人よりも突き詰めて考えている職人を知っていると「お上のお墨付き」くらいでは文化が伝わるとはとても思えません。