生涯現役


料理そのものはもちろん、料理人としての志の高さに尊敬の念を抱かずにはいられない方が何人かいます。


中でもこの地で常に身近なところにいる中華料理「静華」のご主人宮本さんは、店を開店する前から存じ上げているだけに、歩んできた道のりはいつも憧れでした。



昨日店にご夫婦でお見えになり「来年春で今の店を一旦閉めることになりました」とおっしゃいます。まだまだ不景気の波が厳しい料理業界にあっても彼の店が不景気で店を閉めるなどありえないことです。聞けば、「一年間店を閉めて中国へ料理の修業に出かける」とおっしゃるのです。


最初に店を構えた頃から、「店を一ヶ月休んで香港に修行へ」ということを毎年当たり前のようになさっていた方であったのですが、7年前に移転新装開店されてからは、一度も長期で修行に出かけることはありませんでした。


宮本さん曰く「そろそろ・・・」・・・って、私よりも年上、中国料理では一家を築き、全国でも屈指の名店を営む方が、「再び修行」しかも「店を閉めて一年の期間」とおっしゃるのです。サラリーマンであれば、定年をにらみ老後をどう穏やかに生きようかと模索し始める年代です。料理人であっても一般的には守りに入り始め、自分の仕事の古臭さにさえ気づかなくなる頃、そういう料理人をごまんと見ているという年代なのです。よくても自分より上がいなくなり、年をとっているだけで尊敬されたような気分になって「一生修行です」などとうそぶいて見せるくらいならまだましな料理人かもしれないと思う・・・くらいの地位にいる方です。


地方の名店がバタバタと店を閉め、営業を継続しているだけも御の字という厳しい時代に、一年間修行に出られるだけの経済的なゆとりも築き、50代も半ばにして精神的には一から出直そうといえる料理人をこれまで見たことがありません。多店舗展開をするわけでもなく、東京への進出をするわけでもなく、生涯料理人として道を究めようとしている姿には畏怖の念さえ覚えます。


「早く借金を終えて引退後をどう楽しもうか」などと考えている私との志の高さの違いは、天と地ほどの開きがあって、一生どうあがいても超えられそうもない料理人です。