心地よさの基準


料理店の本分は「料理が美味しいこと」「お酒がおいしいこと」以上に、そこで過ごしたひと時全体が心地いいことに尽きると思っています。そして、心地よさの基準も人それぞれです。できうれば、お客様がサービスを要求する前に察知できることは察知して、さりげなく手を添えるような心使いができれば一番です。


接待などのケースでごく稀に、私ども以上にお客様に気を使いあれこれと細かい指示をされるお客さまがいらっしゃることがあります。「そこまでご接待先の気持ちが要求しているのかな?」「そこまでしたら疎ましくないかな?」と思うような気遣いをされると、サービスを受けたほうも気疲れすることがあります。適度の放っておくことも実は大切な要素なのです。特にご接待先が私どもお得意様であったりする場合には、そのお得意様の心地よさの基準のようなものも私たちは心得ているつもりです。心地よさのスタンダード以上のことはかえって余計なことになってしまう場合もあるのですね。


あるお客様、お得意先が手水場から部屋に戻るたびに「おしぼりをお願いします」とおっしゃる方がいました。クラブやバーのような感じの心地よさがよいと思われるのでしょうか。よくわかりませんが、お客様の心地よさの感覚がそうなのでしょう。玄関でお支払いを済まし、お帰りになるときに「おしぼりをお客様にお願いします」とおっしゃる方もいましたね。私のスタンダードとはちょっと違って少々戸惑いましたが、”NO”とは言わない店ですので、慌ててお出ししました。


やはり接待でのこと、お酒が徳利の半分くらいになると慌てて水屋にやってきて、「次のお酒を大至急でお願いします」とおっしゃるお客様もいます。お客様を長い時間お待たせすることはあってはならないのですが、お酒も料理もある程度ゆったりした時間の中で進んでいくことも大切な要件です。料理もそうですが、お酒についても本来は私どもが流れの中でいつも次のタイミングを考えているべきだと思っています。ビールがグラスに常にいっぱいであることが接待している満足につながるのか、飲みたいタイミングを見計らって「いかがですか?」とお酌をするのが心地いいのか。


細かいことを言えばキリがありませんが、お客様の心地よさを推し量るというのは毎日接している私たちでも難しいものです。その基準は人それぞれですから。