clementia2006-07-17



一昔前にはこの地で鱧をお出しすると、「鱧って京都だけじゃぁないんだぁ」とおっしゃる方が結構たくさんいらっしゃいました。


遠州灘で獲れる鱧、紀州辺りの鱧は十分使える食材であるのですが、鱧料理自体が地元でポピュラーではなかったのですね。


私自身は関西で修行してきましたので、鱧はごく当たり前に梅雨時になれば使いたい食材です。職人の腕の見せ所といわれる「骨きり」も慣れてしまえば、秘儀・・・とまではいえないほどの普通の仕事です。よく夏の時期に京都辺りの料亭を取り上げるTV番組なんぞがあると、必ず鱧の骨きりが披露されますが、普通に仕事を覚えてきた職人にはお刺身をひくのと同じレベルの作業の一部ではあります。


ただ、骨きりとか刺身ひきとかという仕事は、確かに立て板(花板)のみに許される花形の仕事でしたから、若い頃あこがれの調理長が恭しく鱧の骨きりに向かう姿を見ていると、長い間仕事をしてきても「あの調理長を超えられただろうか?」といういつまで経っても超えられない高いハードルのような気がしていたのも事実です。が、しかし、あるときTVで高名な調理長の包丁仕事を何気なく見ていると、「あっ、あの程度なら自分でもやってるじゃん」と気づき、一気にハードルが低くなったような気がしました。難しいとはいえ、所詮包丁で切るだけの仕事です。ご大層に構えることもないのだな・・・とやっとトラウマから抜けれらたような心持になれたものです。


とはいえ、以前高麗橋吉兆さんでいただいた鱧、千花さんでいただいた鱸の包丁の切れ具合の二つは、「このレベルは一生無理かも・・・」と打ちのめされるほど見事でした。世の中にはずば抜けた人というのが必ずいるのですね。