ボンボン育ち


私は決して裕福な家庭に育ったわけではありませんが、料理人としての環境はかなり恵まれていました。




小さいながらも料理屋としての建物をはじめとする資産もちゃんとあった上に、大きな借金も残していませんでしたから、銀行とのやり取りでも苦労らしい苦労をしませんでした。一から料理店を始める料理人からみたら夢のようなステージが最初から用意されていたわけです。


お宝はないにしても器もそれなりにそれなりに持っていましたし、お軸やお飾りもなにも買わなくても四季を通じて困らない程度のものは倉庫に収められていました。


祖父、父ともに料理人で、それなりに長いこと店をやってくれていた上、二人とも店の名前を汚すような仕事は絶対にしませんでしたから、私が店を継ぐ時点ですでに「信用」という最も料理屋に大切な要件を無条件で手にしていました。


腕だけが頼りの何の後ろ盾もない料理人が一国一城の主となろうとするときに比べたら、私の生まれながらに持っていた環境は、「猫でも店を維持することくらいはできる」・・・というほど贅沢なものです。今私が営んでいるような店を、何も持たないところから一料理人が得るためには、私の数倍の努力と運がなければ持ちえません。私のようにのんびりした仕事ぶりでは100%不可能です。


とはいえ、この厳しい経済状況の中ではボンボン育ちのメッキは簡単にはがれ、生え抜きの方々の厳しさがない分ヨロヨロです。


「三代目唐様で売り家と書き」はやってくるのか?はて??