消え行く歴史

clementia2006-05-15



これまで何度もサイトで紹介をさせていただき、店も多くのお得意様の「おお!」という感嘆の声を聞いてきたお酒「達磨正宗 昭和54年 純米甘口果実香」の残りが最後の4本になりました。


一般的に日本酒は同じお酒が毎年造られ、素人のレベルでは市販品の年毎の味の差はほとんどわからないように安定したレベルのお酒が販売されています。


たとえば、黒龍「石田屋」が飲みたければ、手に入れるルートさえ確保できればいつでも楽しめるのです。ところが、古酒の場合はそういうわけにはいきません。日本中を探しても10年以上の古酒を安定的に同じ味で供給できている蔵は極少数でいつでも楽しめるものではありません。


中でもこの「達磨正宗 昭和54年 純米甘口果実香」は、この蔵が昭和47年から創めた古酒への長い道のりの中で、ほとんど奇跡的に出来上がったヴィンテージなのです。この時代はまさしく古酒の試行錯誤の時代で、毎年さまざまな試みを積み重ねても、結果が出るのが数年後、今造ったお酒が何年か後にどのような姿になるのかは全く未知数であったのです。因みに昭和54年と同じようなタイプの古酒ができるには昭和59年まで待たなければなりませんでした。それでも5年の差は大きくて、昭和59年が素晴らしいとはいえ54年を超えることは今はありません。


その古酒の、いえ日本酒の歴史に残る「達磨正宗 昭和54年 純米甘口果実香」が終わりに近づいています。蔵からの出荷はとうに終っていて、市場で手に入れることはすでに不可能です。これまで昭和54年に絶賛の言葉を発したお客様には、もう一度名残惜しむように最後の一杯を飲んでいただき、さらに「この方は日本酒を理解していただける」「愛情を持って日本酒に接してくださっている」という方にも一杯の杯を傾けていただきたいと思うのです。


そして最後の一本は私の引退のときまで寝かせておきたいと思っています。さまざまな古酒への出会いのなかで唯一無二の「達磨正宗 昭和54年 純米甘口果実香」の味わいは、間違いなく私の記憶の中に一生残るお酒です。