グルメな始まり


本棚を整理をしているときに山本益博さんの「東京 味のグランプリ200」が出てきました。第一版は1982年。たぶん最初からみたはずです。もしかすると一億総グルメ化の始まりはこの本にあったのではないかと思うのです。


私自身が自腹でさまざま飲食店を訪ねるようになったのは、社会に出た1977年、大阪修行時代の頃です。あの当時世の中にはガイド本など皆無で、唯一山本嘉次郎などが監修に参加したマップの形式を使った案内地図があるくらいで、町の串揚げ屋さんと吉兆さんが同列で地図に載せられているような内容でした。(そういえばあの当時、吉兆さんは今のようにもてはやされる料亭ではなかったのです)どうやって美味しそうな店を探したかというと、文筆家の書いたエッセイの中での断片や口コミが主力でした。「食べ歩き」という言葉自体まだ世間で誰もが使う言葉ではありませんでしたし、「趣味は食べ歩きです」というのはもうちょっと時代を下ってからでした。「グルメ」という言葉さえまだない時代、食べることがそれほど脚光を浴びてはいなかったのです。もちろんnetなど影も形もなく、食について語るのは文筆家のエッセイくらいでした。食に関する本もまだまだとても少なくて、プロのお話ならほとんど「辻嘉一」のみ、グルメ本らしきものも邱永漢「食は広州にあり」壇一雄荻昌弘(本の名前はそのうち思い出します)の三冊さえ読めば事足りると思われていました。


今のような「こだわりラーメン」始まりも私の記憶では「東京 味のグランプリ200」が最初であったように思います。荻窪「丸福」の記述をみて「ラーメンごときにこれほどたっぷりの思い入れができるものなのだ」という印象が残っています。あの頃から「求道者的ラーメン食い」が「丸福」「春木屋」に行列をしたのです。


伊丹十三の「タンポポ」でラーメンが扱われたのが1985年。思えば、あの頃から加速度的に食の情報があふれ始め、食べることが趣味化していったのであったと思います。25年ほど前のあの本にでてくる店の数々、今もメディアでもてはやされる店は極少なくなっています。食の時代が加速すればするほど、店は使い捨てられるようになってきました。


netの時代を迎え、昨今のブログ流行の時代、一億総グルメ化から一億総グルメ評論家化が進みつつありますが、日本人の食の趣味化は私のような年寄りに言わせればつい最近始まったこと、食は三代という言葉を信じれば、netにあふれるさまざまなご託、ラーメン屋さんのこだわりなんぞ「50年早いぞ」といっても怒られないかもしれません。