真っ当な普通


○○へお出かけ、と、決まると、「どこで何を食べようか」がとても大事になります。必要以上にこだわって連れ合いに嫌がられたりするのですが、「どこかそのへんで適当に」というのは私にはありえません。適当に探したて美味しいものに出会うことは皆無です。楽しいお出かけにまずい食事はせっかくのウキウキ気分を台無しにしてしまいますから。


東京、京都あたりでしたら普段からチェックをしていますから、あっという間に候補の二つ三つはあがるのですが、地方都市となるとネットの半端な情報では全く訳がわかりません。そういう時は、普段からnet上でお付き合いのあるしっかりした舌をお持ちの方のご意見が欠かせません。


というわけで、
一昨日の休日に家族の用事で静岡に出かけてきました。お昼ご飯は中華の職人さんにnet上で教えていただいたおそば屋さん。これがやはり大正解で、おかげで家族全員がご機嫌でした。


たずねたのは「くろ麦」さん。静岡では有名な店であるそうです。


佇まいもお店の方々の雰囲気も気さくな普通の街の蕎麦屋さんで、メニューも風変わりな蕎麦があるわけでなし、きわめてオーソドックスな蕎麦のラインアップです。つまみも焼き味噌に板わさ、玉子焼きとこれもド定番なのですが、周りを見渡すと客の1/3がつまみを頼んで一杯やっています。これは定番のつまみが美味しいのであろうと、玉子焼きと焼き味噌を頼み、蕎麦は天盛りと鴨南蛮をお願いすると「どちらを先にお召し上がりですか?」と聞いてくれます。


ウムウム、これはいい傾向です。とたんに希望が出てきます。先に出された葱と本山葵を見ると、葱の切り口がとても美しくて職人の技術を感じさせてくれます。さらにとなりの席に運ばれた卵とじ蕎麦の玉子の火入れがとても美味しそうに見えます。


こうくれば料理が出る前から美味しさは99%確信できます。


案の定、玉子焼きも焼き味噌も、せいろも鴨南蛮もとてもよろしい。添えられた天婦羅もシンプルに大き目の海老二本に青唐のみ、冷凍モノですがへんに天然巻き海老こだわっていないところがまたいい。普通なのですが、普通のレベルがすべてに渡って大変高いところで維持されているのです。かといって、どこかに「そば粉は○○産のみ使用」とかいってべらぼうに高い金額になることもなく、「蕎麦はまず水で食え」とか「山葵はこうやってつけるべきである」とかいう押し付けもなく、前述のように「蕎麦はせいろだけにこだわる」とか「酒は○○であるべきである」みたいな「こだわり」が全面に出ていないのが極めて心地いいのです。




以前に書いた、静岡からそう遠くないところにある「藪 宮本」のように研ぎ澄まされた蕎麦屋さんも大好きですが、こういう真っ当に普通の街の蕎麦屋さんはさらに好きです。近所にこのレベルの蕎麦屋さんがあれば週二回は通いたい感じです。


普通のものを真っ当に普通にということがいかに難しいことか、こと料理に関しては骨身にしみてわかっているつもりです。難しいことをクリアしていくと自然に講釈たっぷりに食べ手に対して押し付けがましくなる。巷にあふれる「こだわりの○○」の類の店はすべてそうです。


街の蕎麦屋さん、鰻屋さん、ラーメン屋さん、こういう店は普通の仕事を淡々と普通に、しかし高いレベルでこなして欲しいものです。「究極の手打ち」でもなく、「○○産の鰻を秘伝中の秘伝のタレを使って備長炭で焼き上げ」でもなく、「Wスープを15時間かけてとり、出来が悪ければ店を開けない」でもなく、すべての大切な仕事をさらりとこなしていながら普通に振舞う街の食べ物屋さん、そのあるべき姿を見たような気がします。


こういう店を成り立たせているのは静岡と言う土地の民度の高さの証明でもあると思うのです。