正しい情報


小林信彦東京少年」を読んでいます。太平洋戦争末期、学童疎開を経験した著者の体験をもとに書かれた小説です。そこに書かれている世相は、私たちがこれまでなんとなくテレビや本で見聞きしてきたものとかなりニュアンスが違う部分が多くあって、実体験を元に驚くべき記憶力でかかれた小林氏のパワーを感じます。当時小学校6年生だった少年たちは、報道で伝えられる戦局をかなり疑問視していたというのです。「どう考えても日本が勝っているはずはない」小学校6年生でもそう思っていたのです。




話を転じてトリノオリンピックです。


メディアでは「メダルはどうした」と騒ぎ立てます。「あれほど期待していたメダルが一つもとれない」と。前半のジャンプも、ハーフパイプも、モーグルも、スピードスケートも、世界にどれほどの有力選手がいるかも知らせずに、日本の選手だけにスポットをあてメダル確実と大騒ぎして「メダルはどうした」と言います。


実際に競技が始まってみると世界における日本人選手のレベルが知れます。たとえばハーフパイプなど、「○○はワールドカップで表彰台」とオリンピック前に盛んに煽っっていたのに、オリンピック前にラジオのある番組で「ハーフパイプのメッカはアメリカである。アメリカ選手はワールドカップに参加していない。アメリカの水準がダントツである」と知りました。実際競技が始まるとひっと飛びでアメリカの水準は素人がみても圧倒的であることが理解できます。「こんなもんどうしてメダル確実なの?」「入賞さえ難しいのは一目瞭然じゃん」


簡単なこんな情報さえ流さないで、「メダルの期待」だけを煽るメディアの実情は、太平洋戦争当時のメディアから全く進歩がありません。あの当時「我々は大本営によって情報を操作されていた」「嘘だとわかっていても流さざるを得なかった」ということ自体眉唾ではないかとさえ思えます。メディアの体質自体があの当時とちっとも変わっていないのです。お人好しにも国民はあの当時よりも能天気に「メダルが取れるんだろう」と信じているのは悲しくなるほどです。


これから始まる超期待の女子フィギアはどうなんでしょう。日本人以外の世界の有力選手を何人知っていますか?たぶんメディアではほとんど紹介されていません。安藤美姫は世界レベルではジュニアで二番になっただけの実績しかないのですね(私は知りませんでした) 家族を持ち出して涙を誘う記事を書こう何ていうはき違えた「感動をありがとう」を煽るメディアによって、安藤がおもちゃにされるのは時間の問題かもしれません。四回転さえ成功すればメダルが転がり込むに違いないという「神風がふけば・・・」みたいな思考に偏り始めているとは思いませんか。試合が近づくにしたがって、安藤がカメラに向ける目線に曇りが見えるのはメディアへの不信感からではないかとは思いませんか。


選手を育ててメダルを取らせたいなら、有望選手に「メディア対策プロジェクトチーム」を作って、いらぬ期待や選手を精神的につぶすような愚行から守る事から始めないといけないと確信し始めています。


対カナダ、対イギリス戦のライブでワクワクさせてくれたカーリングチームみたいなアスリートたちに、三流メディアが近づいておもちゃにしないで欲しい、頼むから。あの素晴らしい試合の記憶だけで彼女たちを覚えていたいから。