「愛と情熱の日本酒」


店にご来店の方はご存知のように、「日本酒を」というご注文をいただくと私自身がお客様のお部屋にお酒のボトルを持って伺い、お出しするお酒のお話をさせていただくことがよくあります。


お酒の産地や酒米のお話はもちろん、杜氏さんの話題や蔵のエピソードなど話題は多岐にわたることも頻繁です。それらのお話は主に酒屋さんから細かく伺っているわけで、自分が素晴らしいと感じて使わせていただくお酒のことはできるだけ多くの情報を手に入れたいと思っています。


もちろん、お客様がそういった話題に興味を示してくださるかどうかによってお席での話の向けようは変わってくるのですが、ありがたいことにお酒の美味しさだけでなく、それにまつわるストーリーにも興味をもってくださるお客様がたくさんいらっしゃいます。「どうしたらこれほど美味しいお酒ができあがるのか?」お話の中で納得してくださる事もよくあります。




昨年末から何度か繰り返し確認しつつよんでいる「愛と情熱の日本酒」(山同敦子)という本があります。山同さんはdancyuなどの記事で日本酒や焼酎の特集になるとよく見かけるライターであることは知っていたのですが、まとまった本として拝見するのは初めてでした。


取り上げられている蔵は「喜久酔」「醸し人九平治」「凱陣」「王禄」「奥播磨」「十四代」「飛露喜」「秋鹿」「磯自慢」


すべての蔵の最上級と、さらにごく少量しか造られない稀少酒を使わせていただいている思い入れの深い私ン処には大切な蔵ばかりです。

「喜久酔」は松下米純米大吟醸の数年にわたるビンテージ、時に垂直で
「醸し人九平治」は2002の別誂えを始めお手前大吟醸など最上のものはすべて
「凱陣」は燕石を始め古酒も含めかなりのバリエーションを
「王禄」は超辛口純米から最上の大吟醸まで
十四代」はおそらくすべてのボトルを
「飛露喜」もすべてのボトルを
「秋鹿」は一貫造りから古いヴィンテージまでたくさんの種類を
「磯自慢」は常に最上級のラインアップを最低でも5種類を。今も平成3年の水響華大吟醸


これらの蔵の若主人のインタビューを中心に蔵の熱い酒への思いがたっぷりこの本には書き込まれています。山同さんの取材は微に入り細に入り綿密です。それらは私がお客様と一緒に話題にしながらお酒を楽しんでいただきたいようなものばかりなのです。


ブルゴーニュ・ワインのファンは、「今年のグロ家のミッシェルはクロ・デ・レアの畑の摘み取り時期を・・・」とか「モンラッシェの畑でヘリコプターの事故があって、○○家の木が何本やられてしまった」などと極東の端っこで村の世間話のような話題までワイン話として楽しむような時代です。日本酒でも同じように大好きな蔵のお話を酒の肴に楽しく飲む時代になってきました。


そんな楽しみ方ができる日本酒ファンにはたまらなく楽しい本であり、私にはお座敷での日本酒話の元ネタになりそうです。「あっ、その話、山同さんが書いてた・・・」と思っても目をつぶってくださいね。