”THE 有頂天ホテル”


三谷幸喜脚本監督の「THE 有頂天ホテル」(最初の題字が”THE WOW-CHOTEN HOTEL”となっていたのが面白い)を封切り早々見てきました。


今年は「キング・コング」に始まって次に「THE 有頂天ホテル」名作続き、至福続きで嬉しい。


一年かけたという脚本が素晴らしい事はもちろん。「ラヂオの時間」「みんなのいえ」「THE 有頂天ホテル」と監督としての力量も半端ではありません。当然ながらコメディのつぼを心得、映画を心から愛してやまない三谷氏の気持までもが伝わってくる映画なのです。


フジTVを中心にしたプロモーション活動も目にとまるものですから、長回し(どんぶりというそうです)の手法や、豪華で巨大なセット、芸達者な俳優、意表をついた役柄などなど見所も映画館に足を運ぶ前からたっぷり情報として入っていました。映画が始まるとそんな情報に照らし合わせながら映像を見ている自分がいて、「あっ、ここでも”どんぶり”」「こんなところでココリコ田中が前作をパロッてる」「スクリーンの端の方でまたマニアックな演技をぉぉ」「なんか映画というよりも舞台っぽい演出だな」などなどとついつい細かいところにチェックを入れていたりするのです。ところがテンポよく洒落た笑を畳み掛けるように仕組まれたり、登場人物一人一人への細やかな人物設定の表現に見入ったりしているうちに、映画のテンポの中に心地よく漂い始め仕舞には声をあげて笑うだけの観客になっていました。そこでは批評家的に映画を見てサイトに気の効いたコメントでも書いてやろうという意識は飛んでしまっていて、ただただ楽しい満たされた気持だけで映画にどっぷり浸かっているのです。「映画って素晴らしい」「人生って捨てたもんじゃない」という三谷幸喜ワールドを満喫しました。


見終わって思い出したのは、以前小林信彦氏がどこかに書いていたように「コメディっていうのは面白い事をやって笑わせるじゃなくて、普通の事をして面白いのが本筋だ。渥美清をみてみればいい」という(というような意味の)言葉。この映画はその本筋に貫かれています。中でも、伊藤四郎角野卓造は格の違いを感じるほどの素晴らしい喜劇役者ぶりでありました。「幸楽のおとうさん」をやらせておくだけではもったなすぎる。


以前に「映画の最後に流れるタイトル・ロールを全部見るか、途中で席を立つか」というお話をサイトに書いたことがありましたが、こういう上質な映画見ると、「こんな素晴らしい映画を作った人々の名前を全部確認しておきたい」という気持になります。映画が素晴らしければやっぱり余韻に浸りながらタイトル・ロールは最後までみるというのは自然なことなのでした。