サクッとてんぷら

clementia2005-09-22



二三度目かの営業に訪れた食材屋さんがこんな試供品を持ってきました。


「天ぷら粉 サク味」天ぷら粉です。


揚げてから時間が経ってもサクっとした食感が維持できる天ぷら粉なのですね。つまり冷めてもベトっとしないでサクッとしたままの衣ができるというわけです。


店で海老や穴子の普通の天ぷらをおだしすることはまずありません。天婦羅は揚げたてを間髪おかず食べるもの、専門の天婦羅屋さんにかなうわけがありませんので、私の仕事ではないと思っています。ましてや、天ぷらが冷めてもいいや・・・・とはとても思えないわけで、「冷めてもサクっと感が残っている天ぷら粉」を使う必要はないのです。


とは言っても、現実には宴会料理に天ぷらが必要であるという旅館や料理屋さんはたくさんあるわけで、料理人の意思や志とは関係なく仕事として要求される場合はごまんとあるのです。夕食のお膳についたときには天ぷらも含めたすべての料理が並んでいて、ポットの暖められた天出汁を注いで食事が始まる・・・・ってな宴会の一つや二つの経験はどなたもあるはずです。少ない調理場のメンバーでたくさんのお客様をこなさなければならない調理場の環境ではこれしか方法がない場合もあります。良し悪しではなく、そういう需要があるのが現実なのですね。実際、30年前でしたら、「料理が一品づつ出てくるから良い店だ」(宴会料理は全部並んでいるのが当たり前)という褒め言葉はいくらでもありました。こういう粉を使わなくても「冷めてもからっとした天ぷらを揚げられる技術」をもった料理人が尊敬される時代もつい最近まであったのです。


今ではこんな食材があることを知って、改めてに日本料理のさまざまな環境に思いをめぐらせたりします。