お大尽その2


昨日お話したお得意様のお大尽。その家のご長男に嫁いだお嫁さん(といってもすでに70歳を越える方)から聞いたお話。(戦後間もなくでしょう)


「私が嫁いだ頃ね、毎日芸者衆が夕飯時に家にいてお義父さんのお酌をしてるわけ、で、弁いちさんから毎日仕出しが届くのよ。このウチはどういうウチだろうと思ったわよぉ」


芸者衆は料理屋の座敷だけに呼ぶものではなく、お得意様の結構身近にいたのです。毎日お宅に伺っているというのはお大尽ならではですが、自宅のお祝いの席に芸者衆をよぶことなどは普通にありました。


私が仕事に携わるようになってからでも、初孫の節句の祝いを自宅でなさる方が、「仕出しを頼みたいから、料理の相談と器を見に来てほしい」というご注文をいただいたことがあります。お客様を招くための特別な器はすべてお宅にそろっていて、料理をどの器に盛るべきかを事前にご相談に伺うのです。その祝い席にはやはり芸者衆がきていてお酌や座持ちよく席を盛り上げていました。実際私の結婚の披露宴(遥か昔)にも7-8人の芸者衆を呼んで祝いの舞やらお客様のお相手をしてもらいました。父にしてみれば料理屋の跡継ぎの祝いの席に芸者を呼ばないなんて恥・・・・という感覚があったのですね。


今では座敷に芸者衆を呼ぶことさえまれになってしまって、こういう感覚はすっかり過去のものになってしまいました。