名演その16〜バードランド

clementia2005-07-16



ベートーベンの交響曲第9番第四楽章「歓びの歌」をあげるまでもなく、単純なメロディーが往々にして人々の感動をよぶものです。(実はモチーフが単純なだけなのですが)


1970年〜80年代にかけてジャズ界をつねにリードしていたウェーザー・リポートの名曲「バードランド」もそうです。モチーフとなるテーマは実に単純なのですが、沸きあがらる興奮を抑える事が出来なくなるほど感動する楽曲です。特に1979年のライブ盤“8:30”(エイト・サーティ)での「バードランド」は歴史に残る名演奏の一つといえます。


当時のウェザー・リポートは、ウェイン・ショータージョー・ザヴィヌルの二人に加え、天才ジャコ・パストリアスと職人ピーター・アースキンの黄金時代でした。幸運な事にこのメンバーの東京公演を二度聞くことができました。重鎮ショーターとザヴィヌルの元で、やんちゃ坊主ジャコが暴れまくり、アースキンはタイトでドライブ感たっぷりに叩きまくるステージで、当時ジャズ・コンサートでは珍しかった休憩なしぶっ通し1時間半が夢のように走りすぎりました。

このコンサートでも「バードランド」は聴衆のお目当てでした。最高潮に達したコンサートでジャコの「バードランド・フレーズ」が始まると観客からは「ウォーー」という歓声があがり、トリップ状態陥ります。あのライブでの興奮は、ウェザー・リポートの結成当初の雰囲気とは別のものでした。


ウェザー・リポートの記念碑的な結成は1970年代初頭。以前にお話したマイルス・デイビスの「イン・ア・サイレント・ウェイ」「ビッチェス・ブリュー」で共演したウェイン・ショータージョー・ザヴィヌルに、驚異的なテクニックで注目されていたミロスラフ・ヴィトス、チックコリア「リターン・トゥー・フォーエヴァー」で存在を知られたアイアート・モレイラの4人で結成されました。当時ジャズといえば、全員で曲のテーマを弾いた後順番にアドリブソロを回していく形が当たり前で(今でもそうですが)、ウェザー・リポートは全員が同時にソロを演奏するといわれる複雑な音楽から始まりました。1960年代のフリー・ジャズの影響もあって決してわかりやすい音楽ではありませんでしたが、ジャズの世界に衝撃を与えました。高校生になったばかりの私には「難しいけどなんかとてつもなく凄そう」な大人の音楽で憧れでだったのです。結成間もない来日コンサートは確か正月。東京までジャズのコンサートのために出かけるというのは、今と違って田舎町の高校生には一世一代の一大イヴェントで、後の「バードランド」のようにノリノリの音楽ではなく、最先端の大人にも理解の難しい音楽を聴くという背伸びもあってワクワクしてコンサートに出かけたのを覚えています。


若い頃の瑞々しい感性にはウェザー・リポートは様々な種類の感動を与えてくれた偉大なグループであったのです。青年時のセンチメンタルな思い出を冷静に100%排したとしても音楽的に素晴らしい足跡を残していると断言できます。ウェザー・リポートは私たちの世代の財産です。