十年目の初対面

インターネットをやり始めたのは1995年頃のことです。さまざまなサイトに巡り会い、その多くが消えていきました。


その中でいつも憧れの的であり続けたサイトは「さとなおさん」でありました。読む人を惹きこむ文章力、旺盛な好奇心、レストラン・ガイドとしての圧倒的な情報量と的確なコメント。自分の店のホームページを作ってみたいと思ったのもこのサイトがあったからこそです。世の中に溢れるほどある料理店のサイトを参考にすることはほとんどなくて、さとなおさんへの憧れが自分のサイトを形作ったといっても過言ではありません。


そしてさらにさとなおさんが団長を務めた「ジバラン」がありました。発足当時の内容はフレンチ・レストランのランキングでしたが、ここで述べられていた「日本料理への提言」はすべての和食の料理人が襟を正して耳を傾けるべき内容でありました。


さとなおさん個人のサイトでもジバランサイトでも語られているいわゆるレストラン評価というのは、常に「素人のレストランへの熱い期待」であることが、netの世界で乱立する素人グルメランキングや評論との大きな違いでした。「私たちはこんな風に楽しい時間を過ごせる料理店が欲しい」それは、自分の舌の能力や飲食業界への訳知りを見せつけたいがためのスノッブな批判的自己主張ばかりの素人グルメ評論とは一線を画すものでした。熱い期待には料理人は正面から向き合わなくてはならないのです。


そんなさとなおさんとは私がファンレターを送ったりしたことから個人的なお付き合いもでき始め、一度もお会いしていないのに娘の進路のための大事な相談までさせていただくような間柄になっていったのです。


そのさとなおさんご一家が先日わざわざ来店してくださいました。待ちに待った憧れの人との対面です。以前の私なら、あの膨大な食べ歩きガイドを作り上げた舌を持つ達人に対決しようとやる気満々で望んだのでしょうが、今はそんな気持は毛頭ありません。お店においでいただく多くのお客様と同じように楽しい時間を過ごしていただくための努力を同じようにさせていただくだけです。でも、ご本人とやはりチーズサイトを主催しずっとファンでもある奥様とお会いしてお話が出来ることでウキウキでありました。net上で知り合ったり、お話をさせていただいた方に始めて来店していただく時はいつも、「実際にはどんなかただろう」と期待が大きく膨らむものですが、これほどワクワクしたことはありません。なにしろ私のアイドルなのですから。


ご一家が私の店をどんな風に思われたか・・・・少なくとも「最悪」ではなかったような印象は得たのですが、たぶん、普段なさっている顔の知られていないレストラン評価とはスタンスが違ってしまいますからサイトで公表されるかどうかもわかりません。(なにしろ先日フランス産ホワイトアスパラをしこたま食べたことを知りつつ、愛媛産アスパラを出してしまうチャレンジャーです)私にしてみれば、ご家族とお会いできただけで「私が」幸せでありました。


いつもと同じような仕事・・・・と言いつつ、店の若い者が「親方、今日はテンション上がりまくりですね」というのですからやっぱり緊張していたのでしょうね、でも楽しかった。