ネバーランド

ピーター・パンは幼い頃絵本で見ました。小さな私にはウェンディーとピーター・パンの恋心やティンカーベルの嫉妬、猜疑心など心の微細な描写はもちろん理解できなくて、子供のための本なのになんか難しくて、怖そうな本という印象であったことを思い出します。ですからネバーランドへの憧れなどあったものではありませんでした。


映画「ネーバーランド」(finding NEVERLAND)を深夜見てきました。観客5人。


「ピーター・パン」の原作者ジェームズ・マシュー・バリが、いかにして「ピーター・パン」を書いたかを描いた伝記映画です。バリは当時、公園で知り合った父親を失った4人兄弟と親しくなっていました。辛い現実を前にして心を閉ざしていたその家族の三男のピーターに、バリは夢見ることの大切さを語りかけるのです。夢とほんの少しの想像力さえあれば、この世は魔法に満ちているのだ。そんなバリの思いが、やがて「ピーター・パン」という戯曲に結実するというわけです。しかし現実は不幸にあふれています。心を閉ざしたピーターだけでなく、バリ自身は空想の世界に閉じこもり、妻の孤独に気付かない。家族の祖母はバリと子供たちの無邪気さを毛嫌いする。父を失った子供たちを必死で支える母親もまた不治の病に侵される。そんな沈んだ日常が、バリや子供たちの空想の世界とつながるや、生き生きと輝くのです。映画では空想の世界が辛い現実から逃避するための手段にはなっていないのが潔い。ファンタジーが苦しさを乗り越えるための糧となっているという救いがあります。


主人公バリを演じるジョニー・ディップの近年の充実振りは本当に素晴らしい。「シークレット・ウィンドウ」でも「パイレーツ・オブ・カリビアン」でもこの作品でも、鈍感な私がゾクゾクするほどの男の色気を感じます。さらに三男ピーターを演じた子役は驚異的です。映画のラスト、公園での二人のシーンが心から離れません。