レ・クレアシオン・ド・ナリサワ

小田原から青山へ移転して1年、やっと伺うことが出来ました「レ・クレアシオン・ド・ナリサワ


いくつかの名店と言われるフレンチ・レストランのことを日記に書いたことがありますが、私が一番絶賛して止まなかったのは成澤さんの料理です。小田原の「ラ・ナプール」の時代、いつ伺っても、一番初めに彼の料理を食べた時の驚き「この人は天才だ」という思いはつのるばかりでした。素材に対する尋常ではない思い入れ、苦労して手に入れた食材を生かしきる考え抜いた料理法、絶妙の火の通し具合、食材と食材の組み合わせの妙、皿の上の一つたりともない妥協。


奥様がサーブする皿に鼻を近づけ香りをいっぱい嗅ぎ、一口口に含んで「うーーーん」と唸ってしまうことが何度あったかわかりません。自分よりも一回りも若い料理人で「どうやても太刀打ちできない」と思う人はそうたくさんはいません。


成澤さんが小田原から青山に店を移したのが昨年の11月、早く伺いたいと思いながらなかなか実現できませんでした。移転後はあらゆるメディアで脚光を浴び絶賛されつづける反動か、私が聞く身近な人の反応や、ネットで見る噂話は決して100点満点ではありませんでした。成澤さんが本当に変わってしまったのか、青山に移るということはそういうことなのか、すべては自分で味わって見なければわかりません。


が、すべては杞憂でした。成澤さんの料理はさらに進化していました。そしてなにより、奥様の力が大きいのでしょうが、サービスのきめ細かさ、店の内装、器を始めとする装い、ワイン、すべてがグラン・メゾンの風格を充分に備えたレストランへと革新していました。日本の多くのグラン・メゾンは企業体の一部として成り立っていて、マダムの存在を感じさせないのですが、成澤さんにはマダムがいます。小田原時代にも感じた立ち振る舞いの優雅さはさらに洗礼され、風格があります。20席という成澤さんが理想とする客席数を20人近いスタッフで切りもりするだけあって、若いサービス陣にもゆとりが感じられのですが、一連の動作には厳しい訓練が感じられます。


食後に成澤さんとのお話で彼が語った「レストランの中で、料理がおいしいと言うのはほんの4割程度のお話ですよね。料理にまつわる様々がうまくいって始めていいレストランに成れるんでしょうねぇ」とは、この完成度の高いレストランを実現した成澤さんご夫妻だから言えるのだと思います。料理のレベルが高ければ高いほどその他への要求も高くなるはずです。


すべての料理とシャンパン、ワイン、心地よいサービス、椅子、テーブル、カトラリー、花器、噂のトイレ、隅から隅まで堪能して、小田原に出現したときから進化しつづける成澤さんご夫婦と、同時代を生きて彼らを楽しむことが出来ることの喜びをあらためて実感したのでした。