接待予算

どんなに美味しいお料理と細やかなサービスが実現できたとしても、お客様の希望の予算に収まらなければ満足度は半減します。


「高かったぁぁ」だけの印象が残るのです。


自腹の場合は、店の内容が払った金額に見合っていれば納得ができます。困るのは接待の場合です。私ン処のように接待比率の高い店ではいつも悩みを抱えています。


普段プライベート、自腹でもお見えいただくお得意様が商売先の接待を受けるというケースはよくあります。ありがたいことに「あの店がいいな」とご指名をいただいたりもします。


そういうお電話を頂戴したとき、もしくは普段から頻繁にご接待でお見えいただく方のお席があるときには、ご予約の時点で、「こちらのお客様は普段こんなご予算でこんな料理とお酒をお召し上がりになることが多いです」とお話するのですが、この不景気のご時世、「予算がありません。でもお宅で」というのが困ります。


自腹でも12000円のお料理をお召し上がりの方に、接待で6000円の料理(軽め)では接待になりません。
お得意様にはその違いはすぐにわかってしまいます。


「私を軽く見ているのか」・・・・と思われても仕方あないのです。


「申訳ありません。そのご予算ですと接待が成立しないかもしれません」と率直に申し上げても、ない袖は振れない方もいるのですね。


「仕方ない。苦しいんだねぇ」と目配せしてくださるような方もいらっしゃるのですが、狭間にたった私は冷汗が出ます。


中にはいつもの接待予算が決まっていても、宴席の雰囲気と、契約のための決断のときがわかるときには、普段はお出ししない極上中の極上のお酒を勝手に出してしまうこともあります。長いこと商売をしていると見切る時もわかるものです。


そのときの極上の一滴が座の雰囲気を一気に華やかにして、契約のための今一歩を一押しするお手伝いをしたり、長いお付き合いのためのきっかけができることもないではありません。すぐれた営業センスをお持ちの方はそういう接待でもお上手です。


「親方ぁ、あの一杯でいい感じになったぁ。いい接待ができたよぉ」少々の予算オーバーの問題はその後の商売で簡単にクリアで切るようです。日本人の接待感覚なのですね。


今日オーバーした一万円でその後の一千万円の利益が生まれる可能性だってあるのです。それはそれで冷汗ものですが。